文明開化の『光』の競争
明治五年(1872年)9月29日、横浜の外国人居住地に、日本初のガス灯がともりました。
・・・・・・・
前年の明治四年(1871年)に、断髪(8月9日参照>>)・廃刀(3月28日参照>>)の令が出て、廃藩置県(7月14日参照>>)が行われ、日本がめまぐるしく変わっていったこの時代。
『光』の競争も、抜きつ抜かれつ・・・たいへんなものでした。
開国とともに、まずやってきたのは、外国人たちが持ち込んだ石油ランプでした。
しかし、当時は石油自体が高価な輸入品であり、とても庶民には、手の出るシロモノではありませんでした。
ところが、明治四年、越後(新潟)に古くからあるクソウズという燃える水が石油ではないか?と注目した石坂周造が、石油会社を創設して本格的な採油と精製に乗り出します。
今度は翌年の明治五年(1872年)、高島嘉右衛門(たかしまかえもん)(12月29日参照>>)らが、横浜にガス会社を設立し、明治五年(1872年)9月29日に外国人居住地にガス灯を点灯します。
そして、次の年・明治六年(1873年)には、東京で石油ランプを見た柏崎県・参事が、石油とクソウズが同じ物である事を確認し、本格的出荷を始め、越後の石油が東京で販売されるようになります。
しかし、ガスチームも負けられません。
同じ時期に芝浜崎町にガス製造所を建設し、せっせと東京の金杉から新橋~京橋~日本橋~万世橋と続く大通りにガス燈の建設工事を行います。
ところが、ガスチームが工事に手間取っている間に、明治七年(1874年)の9月、早くも本石町河岸から馬喰町四丁目までの間に石油ランプの街灯がともり、一大ブレイク!新名所として人々の喝采をあびます。
ちょっと出遅れたガスチーム、7月末には金杉・京橋間で85基の点灯にこぎつけました。
石油ランプは臭いがきつく、その煙もひどい物でしたが、急速な勢いで全国に普及していきます。
それは、「国産のなたね油の売れ行きを圧迫して国をダメにする」という亡国論も生まれたくらいですから、その勢いはスゴかったんでしょうね。
でも、ここからガスチームが見事な追い上げ。
地道に着々と増設していって、明治九年(1876年)には東京市内のガス燈は350基になり、ここでとうとう石油チームの街灯を超えたのです。
しかし、街灯では勝利したガスチームも、一般家庭の屋内灯となると、なかなか石油ランプに追いつきません。
そんな所にまたまた別の強敵が・・・。
そう、電気チームです。
明治のはじめの『光』競争に、完全に出遅れた電気チームでしたが、明治十一(1878年)年、電信局の祝賀会場で、初めてアーク灯がともされ、列席者を驚かせます。
その明るさが、ガス燈と石油ランプの比ではなかったからです。
明治十五(1882年)年には、東京電灯会社が宣伝のため東京銀座大倉前に2000燭光のアーク灯を点灯させました。
「その輝きは数十町まで届き、まるで昼間のようだ!」と人々は絶賛でした。
その翌年には、京都の祇園や大阪の道頓堀にもアーク灯が設置され、さらに明治十九年(1886年)には、エジソンの白熱電球の輸入も始まり、瞬く間に国産の電球も売り出されるようになります。
そして、ご存知のように、『光』に関しては、最終的に電気チームの一人勝ち!って事になるわけです。
まるで、最近の携帯電話・事情を見ているようです。
次から次へとめまぐるしく新しい物が生まれていく・・・いつの世も変わりません。
関わっている人は大変ですね。
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コメント
茶々さん、こんばんは。
またまた、とても勉強になる記事ですね!
しかも「ガス・チーム」と「電気チーム」の熾烈な(?)競争!
当時の激動の世相の中で、さまざまな業界で来たる文明への転換が急がれたのでしょうね。
明治はいろいろな意味で、とても活気のある(必要にせまられながらも)時代だったと思います。
いつの時代も先見性のある燃料の確保は大変なようです。
投稿: ルーシー | 2006年9月30日 (土) 21時14分
ルーシーさん、こんばんは。
徳川時代の300年間、あまり変わらなかった物が次々と変って行く時ってどんな感じなんでしょうね。
一般の人は、ついて行くのにたいへんだったでしょう。
私なんか今でもけっこう乗り遅れているのに・・・
最近、大阪・天満の近くで『水素スタンド』なる物を発見して、いつか石油にかわる時代がくるのかな?と、思いました。
投稿: 茶々 | 2006年10月 1日 (日) 01時24分