金色夜叉の尾崎紅葉が死去
明治三十六年(1903年)10月30日、『金色夜叉』の作者・尾崎紅葉が亡くなりました。
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それまで、江戸時代の義理人情を描いた作品を多く書いていた尾崎紅葉(おざきこうよう)。
ち~っとばかし落ち目になっておりました。
そんな紅葉が、起死回生を狙って読売新聞紙上に『金色夜叉』の連載を開始したのです。
時は、日清戦争の興奮さめやらぬ明治三十年(1897年)の1月。
これが、連載開始と同時に爆発的な人気を呼び、紅葉自身の人生をも変える大ベストセラーになるのです。
最近のお若い方々は『金色夜叉』と言ってもピンと来ないかもしれませんので、軽く筋書きを言いますと・・・
旧制高等学校・一高生の間貫一(はざまかんいち)とラブラブだった許婚(フィアンセ)のお宮さん。
ところが、突然お宮さんの前に、大金持ちの銀行家・富山(とみやま)が現れ、大金に目がくらんだお宮さんは貫一を裏切り、すんなり富山にお乗換え。
有名な熱海の海岸での別れの後、復讐を誓った貫一は、高利貸しという金(金色)の鬼(夜叉)になってお宮さんの前に登場し、お宮さんは愛と金の板ばさみになって苦しむ・・・というストーリーです。
「来年の今月今夜のこの月も~再来年の今月今夜のこの月も~俺の涙で曇らせてみせるぁ~」
「よっ!日本一!」
っと、熱海の海岸の名場面は、お芝居の定番でもありました。
いったい、何十万部売れたのか見当もつかない・・・というこの作品。
それにしても、なんでこんなにヒットしたんでしょうか?
それは、まさに当時の社会の風潮にピッタンコだったという事。
日清戦争に勝利して、この調子ならウザいロシアもやっつけられるんじゃないの?というイケイケムードの中、急激に資本主義が勢いを増してきた時代。
世間には成金がはびこり、「お金がすべて」という考え方が目立つようになった時代背景が、読者の共感を呼んだのでしょう。
愛か?お金か?
思い悩むヒロインは、我がことのように読者の胸に突き刺さったに違いありません。
今なら、さしずめ、イケメン一流大学生を主役に、黒皮の手帳を持ったキャバ嬢をヒロインに、IT関連企業で一躍有名になったヒルズ族をからませ、惚れたはれたの恋愛話・・・と、いったところでしょうか?
この作品で、再びベストセラー作家に返り咲いた紅葉は、次が怖くて、打ち切る事ができず『続金色夜叉』、『続々金色夜叉』、『新続金色夜叉』と、亡くなる直前まで書き続け、皮肉にも作者ご自身が金色の夜叉になってしまわれたようです。
きっと、次を期待された作家さんのプレッシャーたるや、大変なものでしょうねぇ~
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