魔界の使者・小野篁
承和五年(838年)12月15日、遣唐使の副使を断った小野篁が隠岐へ流罪になりました。
・・・・・・・・・
さて、問題です。
「子子子子子子子子子子子子」
何と読むでしょう?
嵯峨天皇が意地悪で出したこの問題、平安の天才・小野篁(おのたかむら)は、間髪入れず即答します。
「それは、猫の子の子猫、獅子の子の子獅子と読むのでしょう?」
ドタバタ続きの平安京を見事に治めた嵯峨天皇も、さすがに「参りました」の一言です。
小野篁という人は、あの初代・遣唐使の小野妹子(7月3日参照>>)の子孫で、小野道風(12月27日参照>>)・小野小町(3月18日参照>>)のご先祖・・・と言えば、彼の事をご存知でないかたも、少し親しみがわきますよね。
そして、政治家でもあり、文人でもあり、歌人でもあるその天才のDNAにも「納得・・・」ってトコですよね。
小野篁は、参議・小野岑守(みねもり)の子として生まれ、東宮学士(皇太子の家庭教師)などをやった後、朝廷で高級官僚として活躍します。
しかも、頭脳だけではなく、剣や弓・乗馬の腕もスゴかったというから、もう女の子にもモテまくり・・・で、ついたあだ名が『野狂』・・・って、エェなんで?
実は、さすがに天才だけあって、少々・・・いえ・・・けっこうな変わり者。
昼は朝廷でバリバリ働きながら、夜は毎晩のようにあの世へ通っている・・・とのもっぱらのウワサ・・・
平安時代は、風葬がよく行われたのですが、その風葬をする場所が鳥辺野と呼ばれる現在の京都・東山の南側。
人が亡くなると遺族は遺体を棺おけに入れて、都から鴨川を渡り五条通りを東山に向かいます。
そして現在の六波羅蜜寺や珍皇寺(ちんのうじ)のあたりの六道の辻(ろくどうのつじ)と呼ばれる場所で、最後のお別れ(これを「野辺の送り」と言います)をして、ここから先は僧侶の手にゆだねられ、風葬をする鳥辺野へ運ばれていきました。
やがて人々は、このあたりの六道の辻を冥界への入り口と考えるようになるのです。
最初に篁が冥界へ行ったのは、死んだ母親の霊に会いたくて、あの世へ通じていると言われていた珍皇寺の井戸から・・・。(犬夜叉か!)
そして、何度も通ってるうちに閻魔さまと仲良くなって、冥界では、閻魔大王の補佐役をしていたと言います。
現在の珍皇寺には、篁が冥界へ通った井戸(写真→)と、篁自身が彫った閻魔大王像と篁像があります。
見た人が彫ったのだから、さぞかし本物の閻魔さまそっくりなんでしょうね・・・暗くてよく見えなかったですが・・・
ちなみに、この珍皇寺の井戸は入り口で、出口は嵯峨の大覚寺の南側の六道町に、明治の頃まであった福生寺の井戸だとされています。
・・・て事は、今は行ったきりで帰って来れなくなるので、気をつけなければ・・・。
・・・で、エライ回り道をしてしまいましたが、この篁さん、こんな不思議な行動ばかりしていたわけではありません。
最初に書いたように、仕事に関してはバリバリのスゴ腕だったのです。
そして、彼が30歳半ばを過ぎた承和五年(838年)、遣唐副使に任ぜられます。
しかし、彼は、すでにこの時、遣唐使は不用の物として廃止を訴えていたのです。(実際にはこの56年後に不用として廃止されます)
当然、大使の藤原常嗣(つねつぐ)と争いになる中、“西道揺”と題した遣唐使制度を風刺した詩を詠んだところ、この詩が嵯峨上皇の耳に入り、上皇が激怒!
承和五年(838年)12月15日、一切の冠位・官職を剥奪され隠岐へ流罪の身となるのです。
♪わたの原 八十島(やそじま)かけて 漕ぎ出でぬと
人には告げよ あまのつり船♪
これは、難波から隠岐へ向かう船に乗せられた時に、京にいる知人にあてて詠んだ歌。
「今、僕を乗せた船が多くの島に向かって、海の彼方へ漕ぎ出した事を、都の人にも伝えてね」
この歌は百人一首の11番に納められているので、ご存知のかたも多いでしょうが、涙をさそう悲しげな歌です。
でも、心配はいりません。
さすが篁さん、隠岐でもしっかり彼女作っちゃってますから、そっちのほうもスゴ腕でけっこうな事でございます~。
結局、2年後には許されるのですが、その時は別れを惜しむ彼女に「これを僕だと思って毎日大事にしてね」と、自分の姿を彫った像をわたして(←別れられる女にとって一番厄介なプレゼントやんけ!)、サラリと帰ってきてます。
都に戻ってからの篁さんは、またまた出世街道まっしぐら。
承和十四年(847年)には従三位という高い位に返り咲いていますので、篁の天才ぶり、敏腕ぶりがうかがえますね。
珍皇寺のくわしい場所や地図をHPで紹介しています。
よろしければ、【歴史散歩:四条から五条へ】>>へどうぞ。
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