千里眼・御船千鶴子と長尾幾子
明治四十四年(1911年)1月19日、超能力・千里眼で話題となった御船千鶴子が服毒自殺をはかりました。
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“千里眼”というのは、少し古い言い回しですが、要するに今で言う“透視能力”ってヤツです。
以前“リング”という映画を見た時、「御船、御船」と散々友達に言いまくっていたのですが、原作者の話によると御船さんは、“リング”のモデルではないのだそうです。
あの、透視実験の風景なんてそっくりだったんですが、逆にモデルでないなら、偶然の一致・・・て事になって、それもコワイ気がしますが・・・。(貞子の怨念?)
事の発端は、明治四十二年(1909年)8月14日の『東京朝日新聞』で、「熊本在住の河地千鶴子(後に結婚して御船姓になります)23歳が、封をした袋の中身はもちろん、鉱物や体の中も見通せる・・・」と報道した事に始まります。
そして翌年の12月に、今度は『東京日日新聞』が、丸亀の40歳になる長尾幾子なる女性を取り上げ「御船千鶴子は、別室に入ると透視できないが、幾子は別室であろうが大衆の前であろうが透視できる」と報じ、その上、幾子は、「写真板に文字や図形を念力で感光させる“念写”の能力も持っている事を、東京帝国大学の福来友吉博士が実験で確かめた」と報道したのです。
もう、世の中は一斉に超能力ブーム一色になります。
そうなると、当然の事ながら、科学的な検知から「ちょっと待ったぁ~」の声がかかります。
当時の物理学の権威・山川健次郎博士が名乗りをあげ、自ら実験を行う事になるのです。
まずは、御船千鶴子の実験・・・
ある文字を書いた紙を鉛で包んで玉にした物を渡し、千鶴子はそれを透視します。
透視の後、玉を割ってみると、千鶴子が言った通りの文字が・・・。
しかし、山川は「自分の書いた文字ではない!」とクレームをつけます。
つまり、玉ごとすりかえた・・・という事。
「違う」「違わない」の押し問答となり、とりあえず実験はやり直し・・・という事になって、後日改めて実験が行われる事になります。
そして、明治四十四年が明けた1月6日、今度は長尾幾子の実験が行われます。
その時、幾子は、山川が書いた「正」という字を、みごと乾板に焼付けましたが、またまたクレーム。
実は、山川が雇った乾板の見張り役が、10分程席をはずしていた事がわかり、その間に乾板をすりかえる事ができた・・・というのです。
しきりなおして、今度はやはり山川の書いた「健」という字を念写する事になりましたが、今度は幾子側からクレームが・・・。
「カメラに乾板が入っていない!これはインチキです」と泣き出し、実際にカメラを開けてみると、本当に乾板が無かったのです。
点検した時に入れ忘れたのか?不審を抱く者が抜き取ったのか?それとも幾子側の仕業なのか?
いずれにしても、「もう続けられない」と、この日の実験は中止となって、やはり、後日改めて実験が行われる事になりました。
ところが、この幾子の実験の13日後の明治四十四年(1911年)1月19日・・・次回の実験を待たずに、御船千鶴子が毒を呑んで自殺してしまったのです。
そして、翌月の2月には長尾幾子も、やはり次回の実験を待たずに、病気で死んでしまいます。
さすがの超能力ブームも、肝心の二人がいなくなった以上、いつの間にか消え去ってしまいます。
こーゆー系統のブームって、来るのも早い変りに去るのも早いですからね。
今となっては、本物だったのか、インチキだったのか、確実な事はすべてわからずじまい・・・藪の中・・・という事になってしまいました。
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コメント
こんばんは!(^^)/
リングは邦画では好きな映画でした。
昔に実際にそういう人がいたんですね~。と信じてしまう側です(^_^;)
なので、山川さんが仕組んだ事ではないかと思ってしまいます(^_^;)
その2人は一般の人で超能力者として芸能活動的な事はしていなかったんですよね?だとしたら実験、実験で疲れちゃいますよね。
投稿: 見習い大工 | 2007年1月19日 (金) 18時33分
見習い大工さん、こんばんは。
そうですね、一番気になるのは、「透視能力がある」と言う事で、当時お金儲けができたのかどうか?ってトコですね。
今のようにメディアが発達していたら、確実に儲かるでしょうが、儲からないならウソをつく必要がないですもんね。
投稿: 茶々 | 2007年1月19日 (金) 21時27分
茶々さん、こんばんは!
私も超常現象的な分野には一目置いているのですが、今でさえこうした現象に懐疑的な世論でもありますし、いかに当時の反発が強かったかは想像に難くありませんね。
幸か不幸か能力を有した人物は、その方向性に戸惑い人生をも左右されてしまうようです。 記事の千鶴子さんはとても能力の優れた有名な方でしたが、悲劇的な生涯を送ってしまいました。
知り合いに霊感の優れた方がいます。商売に能力を使うとその力が曇ってしまったりするそうで、本当に能力のある方は千鶴子さんのように表にさらされることをよしとせず、口伝えで人々の悩みを聞いたりして解決の糸口を助言するのだ、と語っていました。
また、出口 王仁三郎さんというスゴイ方もいましたね。
当時の偏見にみち、実験の道具にもされたような千里眼の異名をもった人々・・・社会の未知に対する冷たい感覚を示す出来事のひとつでした。
どうしても「普通ではない」出来事や人物を異端扱いする風潮はなかなかなくならない現世なのでしょうか(汗)。
投稿: ルーシー | 2007年1月21日 (日) 22時01分
ルーシーさん、こんばんは~。
おぉ・・さすが!
出口王仁三郎をご存知で・・・。
たしか、「大本教」でしたよね。
こーゆー系統の物は、やはり悩める人の心のより所として、儲け抜きでお願いしたいですね。
悩みや恐怖心につけ込んで、あくどく商売している人との見極めが必要ですね。
投稿: 茶々 | 2007年1月22日 (月) 00時14分