孫子の兵法3「謀攻篇」
今日は、『風林火山・孫子の兵法』の第三章・・・謀功篇を書かせていただきます。
4回目という事で、まだのかたは、やはり1回目から読んでいただくとうれしいので、まずはコチラへ↓
★『孫子の兵法』目次>>
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謀功(ぼうこう)篇には、「風林火山」の一説と同じくらい有名な名言が二つ登場します。
まずは、
『およそ兵を用うる法は、国を全うするを上となし
国を破るはこれに次ぐ・・・・
この故に、百戦百勝は善の善なるものにあらず。
戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり』
「戦争というのは、相手を傷つけないで、降伏させるのが良い
相手をやっつけて降伏させるのは、その次・・・
だから、百回戦って百回勝っても、それは良い事ではなく、戦わないで降伏させるのがベストである」
これは、国単位の事だけではなく、軍もそして兵士ひとりひとりに関しても同じ事です。
なるべく相手を傷つけずに・・・できるなら戦わず屈服させる・・・まさに名言ですね。
19世紀始めのプロシアの将軍・クラウゼビッツが、その著書『戦争論』の中で、「戦争はあくまで手段であり、目的は政治的な諸関係・・・手段は決して目的を離れてはいけない」という事を書いています。
言葉は違いますが、孫子の言ってる事も同じ事・・・以前のページでも書きましたが、これは孫子の根底に流れるテーマのような物です。
ただ、戦う以上は勝たなければなりません。
勝たなければその政治的目的を達成する事もできません。
・・・ならば、どうやって最も理想に近い形で相手を屈服させる事ができるのか?
孫子という兵法書は、その理想とそれを達成するための方法や条件を、各章で語っていると言えるでしょう。
・・・で、続けて具体的に説明してくれます。
『故に上兵は謀を伐(う)つ、その次は交を伐つ、
その次は兵を伐つ、その次は城を攻む、
城を攻むるの法は、巳(や)むを得さるがためなり』
「だから、一番良いのは戦いが始まる前に相手の意図を読み取って事前に対策をうつ事、次に同盟関係を断って孤立させる事、その次が戦う事、その次が城を攻める事、
城を攻めるのは、仕方が無い時にやる最終手段である」
孫子は、「城攻めをするには、その武器の準備だけで3ヶ月はかかり、兵士が身を隠す土塁を築くのにもさらに3ヶ月を要する上に、無能な将軍が怒りにまかせて、餌にアリが群がるように兵士に城攻めをさせたなら、兵士の3分の1を失ってもなお、城は落とせないだろう」と言っています。
まさに、大坂冬の陣の【真田丸の攻防】(12月4日参照>>)を思い出しますね。
この時、徳川家康は城攻めによって多大な痛手を被り、急遽、ジワジワと相手をビビらせ、講和へ持ち込む作戦に変更しています。(12月19日参照>>)
そして、次に戦い方の原則・・・
『十なれば、則(すなわ)ちこれを囲み、
五なれば、則ちこれを攻め、
倍すれば、則ちこれを分かち、
敵すれば、則ちよくこれと戦い、
少なければ、則ちこれを逃れ
若(し)からざれば、則ちこれを避く』
「(自分の兵力が相手の)
10倍あれば囲み
5倍なら攻撃をし、
2倍なら、分断して、
互角なら頑張って戦い、
劣勢だと見たら退却し、
勝ち目がないほど差があれば戦うな」
自分トコの兵力を無視して戦いに挑んでは、敵の思う壺です。
俚諺(りげん)にも「三十六計、逃げるに如かず」とあるように、退却の時の判断ほどリーダーの資質を問われる物はありません。
「逃げる」という事は、敗北を意味するのではなく、「次に勝利するための準備で、積極的な作戦である」と認識しましょう。
なので、理想に近い勝ち方とは・・・
『人の兵を屈するも、戦うにあらざるなり。
人の城を抜くも、攻むるにあらざるなり。
人の国を毀(やぶ)るも、久しきにあらざるなり。
必ず全(まつた)きを以って天下に争う。』
「戦わずして勝ち、
攻撃せずに城を落とし、
長期戦に持ち込む事なく、
無傷のまま天下を取る」
これが、優れた指導者の完璧な勝ち方なのです。
この時の指導者というのは将軍の事。
ところが、ここに、「君主」という人がいます。
いくら将軍が優秀でも、君主との関係がうまくいってなければ、敗北を喫すると孫子は言います。
君主と将軍・・・司令官と参謀・・・最高責任者と現場責任者。
トップと補佐役の関係は現在の企業においても、とても重要な問題です。
どこまでの権限を与え、どこまでの責任を取ってもらうのか?
孫子では、君主はその将軍が優秀かどうかをあらかじめ判断して将軍とすべきであって、一旦「優秀な将軍」と判断したからには、個々の作戦にいちいち口出ししないのが得策だとしています。
君主の口出しは、軍の行動範囲を狭めるだけでなく、軍内部に混乱を招き、不信感が募るだけだと言っています。
地震対策本部だけ設置しておいて、ゴルフや飲み会に興じるのも、あながち間違いとは言えないのかも・・・って、←それとこれとは別・・・いけません!
そして、謀攻篇の最後に、まとめとして、5つの条件を出して、それに当てはまっているかどうか、それができるかどうかで、戦いに勝てるかどうかの判断をするようにと教えてくれます。
- 敵と自分の戦力を比べ、戦うべきかどうかの判断ができる。
- その兵力に応じた戦い方ができる。
- 君主とその配下が心を一つにしている。
- こちらは準備万端整え、相手の不備につけ込む。
- 将軍が優秀で、君主がその指揮に干渉しない。
以上の5項目が勝利を収めるための条件・・・これを一言でまとめると、
『彼を知り己を知れば、百戦して殆(あや)うからず』
「敵を知り、自分を知っていれば百戦しても負けない」
謀攻篇、二つ目の名言です。
孫子では、この後に
「敵を知らず自分を知っていれば戦いは五分五分、敵を知らず自分の事も知らなければ必ず負けるだろう」
というのがつきますが、もうそれは言われなくてもわかりますよね。
・・・と、以上今日は謀攻篇を紹介させていただきました。
★続編はコチラ→【孫子の兵法4「軍形篇」】>>
今日のイラストは、
さすがに4回目ともなると『風林火山・孫子の兵法』というテーマに沿った絵もそろそろネタ切れ・・・で、誰という事ではなく、『騎馬武者』という感じで書いてみました~。
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