将軍・義政の贅沢猿楽興行
寛正五年(1464年)4月1日、京都・糺河原で将軍・足利義政主催の「勧進猿楽」の興行が行われました。
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室町幕府八代将軍・足利義政が、政治をかえりみず文化・風流にうつつをぬかし、庶民の苦しみそっちのけで、銀閣寺などの造営に力を入れていた話は、もう有名ですよね。
まぁ、おかげで東山文化という和の極みが確立された・・・という事は、後から考えれば良かったかも知れませんが、当時、生きていた人々にとっては、はた迷惑な話です。
しかも義政さんは、何事も派手にやらねば気がすまない性格で、事あるごとに盛大なイベントを行うのが大好きだったのです。
その盛大なイベントの中の一つが、この寛正五年(1464年)4月1日に行われた「勧進猿楽」の興行だったのです。
「勧進」というのは、以前も書きましたが、本来、社寺の修復などの寄付を募ったりする事で、猿楽や能などに「勧進」がつくという事は、今で言うところの「チャリティ・コンサート」のような物だったわけですが、この頃には、すでにその言葉の意味は無視されつつあり、権力者が芸能などの興行を催して、それを身内だけではなく、庶民にも見せる事を「勧進」と呼ぶようになっていました。
「権力者が一般庶民とふれあう機会」と言うと聞こえは良いですが、当時の権力者という人たちは皆、税金で食ってるわけですから、その贅沢なイベントの費用は結局庶民の税金に跳ね返って来る・・・という、アリガタ迷惑な事になっていたのです。
ところで、その「勧進猿楽」は、4月1日を初日に、7日と10日の合計3度行われました。 場所は、「糺河原(ただすがわら)」。
この京都・糺河原というのは、加茂川と高野川の合流地点で、現在では京阪電車の出町柳駅から橋を渡ってすぐのあの川に挟まれた葵公園のあるあたりです。
その河原に円形の舞台を作り、そのまわりに六十間と言いますから100m余りはある豪華な桟敷(さじき)をしつらえて、将軍・義政&富子夫妻を始め、細川勝元、山名宗全(3月18日参照>>)といった当時のトップ集団が豪華絢爛なとびっきりの衣装に身を包み列席するという、そこいらのイベントとはわけが違うものスゴイ物でした。
・・・と、なんで、こんなイベントごときの話がくわしくわかるかと言いますと、実はこのイベントに行きたくてたまらなかったのに行けなかった人の日記が残っているからなのです。
その人の名は大乗院・尋尊(じんそん)と言います。
この大乗院・尋尊という人は、高級貴族で学者の家に生まれ、最終的には奈良興福寺大乗院門跡・大僧正という地位に着くわけですが、あくまでそれは家柄が良いから・・・。
美しい庭を造ったり、文化的には貢献もしていますが、歴史上「何をやった」と特筆するほどの偉人ではないように思いますが、とにかくメッチャくわしい日記を残している人なのです。
この人のお父さん・一条兼良(かねら)という人も日記を残していて、この人たちのおかげで、この時代の生活ぶりや事件のあらましなどが、ものすごくよくわかる事ができ、後世の歴史好きから見ると大変ありがたいお人なのです。
そして、この尋尊さんも、将軍に負けず劣らずの派手好きのイベント好き・・・。
そんな彼が、将軍主催のイベントに参加しないなんて事があるはずがありません。
何日も前から、心ウキウキ・・・彼の住む奈良から京都まで、わざわざ猿楽を見に出かける予定を組んでいました。
しかし、彼は高級貴族・・・将軍様だって豪華絢爛のお衣装でお出ましなのですから、自分もそれなりの物を整えて行かなくてはなりません。
衣装はもちろん、牛車の準備、自分専用の桟敷の準備、なんでか知らないけど茶道具の準備・・・で、彼はその費用を捻出するため、臨時の税を徴収する事にします。
しかし、当時はすでに正規の年貢さえとどこおりがちのご時世・・・思ったとおり、荘園の農民は猛反対!
「お前の贅沢な見栄張りに、付き合ってられるか!」と言ったかどうか知りませんが、とにかく抗議殺到です。
あげくの果てには、仲間の興福寺の僧たちからも反対され、結局、この日の「勧進猿楽」を諦めなければならなくなったのです。
「無念である・・・」と、この日の日記をしめくくる尋尊さん。
くやしさ余って、あれやこれや書いてくれたおかげで、将軍・義政の贅沢三昧が後世にまで記録される事となったわけですから、まぁ貢献したっちゃぁ~貢献した事になりますわね。
幽玄の世界ですね~
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コメント
今日のイラストは素晴らしいですね。幽玄です・♪
大乗院寺社雑事記・・・わ~! 懐かしい。昔仕事で、これを毎日読むのをやっていたことがあります・・。わはは・・・。
投稿: 乱読おばさん | 2007年4月 1日 (日) 11時03分
>乱読おばさん様
幽玄な感じが出ていれば、うれしいです~。
・・・えっ・・・昔、そんなお仕事を・・・どうりでお詳しいはずですね~。
投稿: 茶々 | 2007年4月 1日 (日) 17時22分