孫子の兵法6「虚実篇」
今日は、『風林火山・孫子の兵法』の7回目『虚実篇』を紹介させていただきます。
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『虚実篇』は、この一つ前の章・『兵勢篇』で重要だとされた集団で力を発揮するために必要な4つの条件の中の一つ・・・「虚実」について説明しています。
『孫子曰く、およそ先に戦地に処(お)りて敵を待つ者は佚(いつ)し、後れて戦地の処りて戦いに趨(おもむ)く者は、労す。
故に善く戦う者は、人を致して人に致されず。』
「敵より先に戦場に行き、敵を迎え撃てば余裕を持って戦える。逆に遅れて行けば、戦いは苦しくなる。
だから、名将は人を致して人に致されず」
「人を致して人に致されず」とは、「相手に左右されず自分が相手を左右する立場に立つ」という事・・・つまり、主導権を握るという事ですね。
・・・で、具体的にはどうやって主導権を握るのか?
敵にある行動を起こさせるためには「そうすれば有利だ」と思わせなければならず、逆に、行動を起こさせたくなければ「そうすれば不利になる」と思わせれば良いわけです。
敵の準備が万全で余裕がありそうなら策略を張りめぐらせてかき乱し、食糧が充分なら道を断って飢えさせる・・・。
そして、自分たちは・・・
『その趨(おもむ)かざる所に出(い)で、その意(おも)わざるところに趨く』
「敵がすぐに行けないような場所に進撃し、敵が思いつかない方向へ攻撃する」
敵のいない場所であるなら、どんなに長い距離を行軍しても疲れませんし、敵の守っていない場所なら攻撃して必ず落とせます。
逆に、相手が攻撃しない場所なら守備についた時、必ず守り抜けます。
この戦法を巧みに操れば、相手はどこを守ってよいかわからなくなり、どこを攻撃してよいか混乱します。
そうなると、相手から見てコチラの軍は・・・
『微なるかな微なるかな、無形に至る。
神なるかな神なるかな、無声に至る』
「姿は見えず、音は聞こえない」
という事になり、コチラの思惑通りになる・・・というわけです。
このように、コチラから見れば相手の動きが手に取るようにわかり、相手から見ればコチラがどう動くかわからないように仕向けておけば、コチラは戦力を集中する事ができ、相手は戦力を分散するしかない状況になり、ますます主導権を握れるのです。
つまり、相手はどこから攻撃されるかわからないわけですから、当然、各アブナイ所を全部守備しなければなりません。
たとえば、その守らなければならない場所が10ヶ所あったとしたら、兵を10に分けて守る事になります。
コチラと相手のもともとの戦力がほぼ同じの時の場合、その10ヶ所のうちの1ヶ所に、コチラの戦力をまるまる使うとすれば・・・
『これを十を以ってその一を攻むるなり』
「10の戦力で1を攻撃するという事になる」
その場所に関しては相手の10倍の戦力で攻撃できる事になります。
この作戦は、もとの戦力が同じでなかった場合にも使えます。
たとえば、小さな企業が大企業に挑む場合・・・まともに戦っては勝ち目があるわけがありませんから、コチラは大企業の「ここだ!」と思う一点に狙いを定め、一点集中攻撃をかけるわけです。
アイデアで勝負?サービスで勝負?技術で勝負?・・・とにかく、何か一つ相手に勝る物に戦力のすべてを賭けて勝負すれば、勝機が見出せるかも知れません。
どんなに強大な相手でも必ず守りが薄い場所があり、つけ込む隙がある物なのです。
「ここが狙い目」という「時と場所」を定める事ができたなら、たとえどんなに遠くまで遠征しても勝てるし、それを見抜けなかったら戦力が分散され、お互いに協力し合う事もできないようになるのです。
『・・・兵多しといえども、また奚(なん)ぞ勝敗に益せんや・・・勝は為すべきものなり。敵衆(おおし)といえども、闘うことなからむべし』
「兵の数がいかに多かろうと、勝敗を決定する要因にはならない・・・勝利は人が造る物である。(なぜなら)敵の数がいかに多くても、(コチラの作戦によって)それを戦えないようにする事ができるからである」
言ってくれますね~孫武さん。
それならかよわい私たちも勇気が湧いて来る・・・という物です。
主導権を握ったら、今度はコチラの態勢です。
『・・・兵を形するの極は、無形に至る・・・その戦い勝つや複(ふたた)びせずして、形に無窮に応ず』
「・・・究極の戦の形は無形である・・・コチラの戦闘態勢は相手の態勢によって無限に変化する」
人は、勝利を収めた時のやり方がベストだと思いがちです。
ですから、次に戦う時もまた、同じ態勢で挑んでしまいがちですが、「それはまちがいだ!」と孫子は断言します。
勝利に至る態勢を見つけ出すには・・・
・現時点での状況を分析し、コチラと相手のどちらが有利か
を見極める。
・探りを入れて相手の出方を見る。
・相手の動きを見て地形のポイントを見極める。
・相手の動きを見て敵の強味と弱味を探る。
この結果によって、コチラはどのような態勢をとるのかを判断するわけで、その態勢は常に変化するわけです。
いったん組織ができあがってしまうと、それを崩すのは勇気のいる事です。
まして、その態勢で一度成功しているならなおの事。
しかし、孫子は、相手によって、いつでも再構築できる柔軟な態勢こそが理想であるとしています。
態勢は水の流れように変化させなければならない物・・・水が高い所を避け低い方へ低い方へ流れていくように・・・
『実を避けて虚を撃つ・・・兵に常勢なく、水に常形なし』
「充実した部分を避けて守りの薄い所を攻撃する・・・水に一定の形がないように、戦い方にも決まった形はない」
以上、今日は『虚実篇』をご紹介しました。
次の機会には、いよいよ「風林火山」の登場する『軍争篇』をご紹介させていただきます。
★続編はコチラ→『風林火山・孫子の兵法7軍争篇』>>
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