孫子の兵法7「軍争篇」
今日は『風林火山・孫子の兵法』の『軍争篇』・・・あの「風林火山」のフレーズが登場する章ですが、その前に、最初は、まずはあの「迂直(うちょく)の計」が登場します。
・‥…━━━☆
「迂直の計」とは、戦いの中で最も難しいであろう勝利への道を作り出す方法です。
『・・・迂(う)を以って直となし、患を以って利となすにあり』
「・・・回り道をしながら直進し、損をしながら得をする」
直訳するとこんな感じですかね?
たとえば、競争などの場合、回り道を迂回しておいて敵を油断させ足止めを食らわせておいて、こちらが速やかに行動すれば、結果的に相手より先に到着する・・・といった具合です。
ことわざで言うところの「損して得取れ」ってヤツですね。
一見こちらが損に思える事というのは、敵にとっては有利に思える事なので、当然それに食いついてきます。
そこを、速やかに裏を返し逆転する・・・
もちろん、これには、相手の事を充分調べておかなければなりません。
敵の思考や動向を知らなければ、駆け引きはできません。
敵の国の地理を知らなければ、そこへ自軍を向かわせる事はできません。
『故に兵は、詐(さ)を以って立ち、利を以って動き、分合を以って変をなす者なり』
「戦いは、敵をあざむく事で始まり、有利な方向へ動き、兵の分散と集中を繰り返しながら変化する」
『兵は詐を以って立つ』というのは、以前の『始計篇』で登場した『兵は詭道(きどう)なり』と相通ずる物・・・つまり戦争は騙し合いだという事をもう一度ここで強調しています。
もちろん、先の「迂直の計」もその騙し合いの一つ。
迂回したかと見せて直進したり、奇襲をかけたかと思えば正攻法で攻める。
陰と陽、静と動・・・そうやって騙しながら戦いを有利に導いて行くのです。
そこで、「迂直の計」の具体例として登場するのが、例の「風林火山」の一説です。
しつこいようですが、有名かつ重要な部分なので、やっぱり、ここでもう一度引用させていただきます。
『故に、
其の疾(はや)きこと、風の如く
其の徐(しず)かなること、林の如く
侵掠(しんりゃく)すること、火の如く
動かざること、山の如く
知り難きこと、陰(かげ)の如く
動くこと、雷霆(らいてい)の如し。
郷を掠(かす)むるには、衆を分かち
地を廓(ひろ)むるには、利を分かち
権を懸(か)けて動く。
「迂直の計」を先知する者は勝つ。
此れ軍争の法なり。』
「なので、
疾風のように早いかと思えば、林のように静まりかえる、
燃える炎のように攻撃するかと思えば、山のように動かない、
暗闇にかくれたかと思えば、雷のように現れる。
兵士を分散して村を襲い、守りを固めて領地を増やし、
的確な状況判断のもとに行動する。
敵より先に「迂直の計」を使えば勝つ。
これが、勝利への道だ」
ただし、いくら『疾きこと、風の如く』でも、ただ単に急いではいけません。
『百里にして利を争えば、則ち三将軍を擒(とりこ)にせらる』
「百里の遠征をして勝ちを急げば、全員が捕虜になってしまう」
軍の中には、強い兵士も弱い兵士もいます。
勝ちを急ぐばかりに、昼夜を問わず行軍したりすれば、当然集団はバラけてしまいます。
重装備のまま全軍で進めば遅くなりますし、かと言って軽装備で行けば装備を運ぶ輸送集団が遅れます。
軍隊が分散されるという事は、それだけ少ない兵で戦わなければならないという事。
遠征をする時は、その危険を充分考慮して移動しなければなりません。
また、孫子では『衆を用いるの法』として、夜はかがり火と太鼓を増やし、昼間は旗を用いて兵士の指揮をとるとしています。
これは、やはり大軍をバラけさせないための方法。
兵士の目と耳に働きかけ、お互いの連絡を密にして、組織としての力を発揮させるようにしなければなりません。
次に、有能な指揮官として掌握しておかなければならない四つのポイントを挙げています。
★気(士気)・・・『その鋭気を避けてその情気を撃つ』
人間、誰でも調子良い時、悪い時があります。
戦いの場合は敵のそのリズムを読み取って、
「敵の元気のある時を避け、士気が下がった
所を見計らって撃って出る」のです。
★心(心理)・・・『治を以って乱れを待ち、静を以って譁
(か)を待つ』
コチラは「態勢を整えて、じ~と静に敵の乱れ
を待つ」のです。
★力(戦力)・・・『近きを以って遠きを待ち、佚(いつ)を以っ
て労を待ち、飽を以って鐖(き)を待つ』
「有利な場所に陣取って敵を待ち、コチラは休
息をとって敵の疲れを待ち、お腹いっぱい食
べながら相手が飢えるのを待つ」
★変(変化)・・・『正正の旗を邀(むか)うることなく、堂堂の
陣を撃つことなし』
出ました!四文字熟語『正々堂々』の語源で
す~。
上の3つ「気・心・力」はいずれも敵の乱れや
弱点を突くという事ですが、弱点を見せない
敵・・・つまり「正々堂々とした敵とは戦わな
い」という事です。
これは、今まで孫子の中で何度も言われてい
る勝算がなければ戦わない事・・・それは逃
げる事ではなく「変化」するという事です。
そして、いよいよ軍争篇の最後で、戦闘に際しての八つの「べからず集」を教えてくれます。
・『高陵には向かうことなかれ』
「高い場所の敵を攻撃してはダメ」
・『丘を背にするは逆(むか)うことなかれ』
「丘を背にした敵を攻撃してはダメ」
・『佯(いつわ)り北(に)ぐるには従うことなかれ』
「わざと逃げる敵を追ってはダメ」
・『鋭卒には攻むることなかれ』
「ヤル気満々のヤツを攻撃してはダメ」
・『餌兵には喰らうことなかれ』
「餌に飛びついてはダメ」
・『帰師(きし)には遏(とど)むることなかれ』
「帰ろうとする敵を止めてはダメ」
・『囲師(いし)には必ず闕(か)き』
「囲む時は逃げ道を作っておく」
・『窮寇(きゅうこう)には迫ることなかれ』
「窮地に追い込んだ敵になお迫ってはいけない」
この「べからず集」・・・。
最初の、「高地の敵」とか「丘を背にした敵」とかっていうのは、私たちの身近にはあまり関係ありませんが、意外と普段の生活の人間関係に役立ちそうな名言ですね~。
特に最後の二つなんかは、最近よく耳にするニュースなどで、びっくりするような犯罪を犯してしまう10代の若者の中には、何やら窮地に追い込まれた感がある子供たちが多いようにも思います。
囲む時はやはり逃げ道を作っておいてあげないと・・・。
「窮鼠猫を噛む」とも言いますからね。
以上、今日は『軍争篇』を紹介させていただきました~。
今日は、
イラストというより、超有名なフレ-ズなので、『風林火山』の部分の原文をデザインさせていただきました~
漢字を一つ一つ見て行くと、何となく意味がわかるから、悠久の時の流れに感動しちゃいます。
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★続編はコチラ→『風林火山・孫子の兵法8九変篇』>>
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