正倉院・アッと驚く豆知識
天平勝宝八年(756年)6月21日、奈良・東大寺の正倉院が建立されました。
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正倉院については、昨年の秋に正倉院展に行った時に、その感想をチョコッと書かせていただきましたが(10月27日参照>>)、今回は、その建立の日という事で、正倉院に関する事を豆知識風にご紹介させていただきます。
・‥…━━━☆
まずは、正倉院という名前・・・これは、東大寺・正倉院の固有名詞ではありません。
天平の昔から役所や社寺に付属する倉庫の事を「正倉」と呼び、回りを囲む垣根の事を「院」と呼びます。
ですから、本来、正倉院とは、「垣根に囲まれた倉庫」という意味で、他にもたくさんあったんですね~。
ただ、現在は遺構などは見つかっているものの、現存する正倉院が他になく、今では「正倉院」と言えば、この東大寺の正倉院を指すようになりました。
つぎに、
正倉院に宝物が納められるようになったきっかけは・・・第45代・聖武天皇が亡くなられた時に、奥さんの光明皇后(8月10日参照>>)が天皇の冥福を祈るために、天皇が生前、力を注いで建立した東大寺と大仏に、天皇の遺品や宝物を捧げた事で、それらの宝物が東大寺の倉庫である正倉院に納められたのです。
で・・・
何と言っても正倉院の宝物が特別なのは・・・「ずっと倉庫に保管されていた」という事です。
以前も書きましたが、世界を見渡しても、1200年以上も前のお宝となると、ほとんどが遺跡から発掘された物。
土の中から掘り起こされた物と、定期的に管理されて保管されていた物とでは、その輝きが違います。
これは、世界に誇れる遺産ですね。
ここまで綺麗に保管できたのは・・・正倉院の正倉の構造が高床式で、3角形の木を組んで造る「校倉造(あぜくらづくり)」という独特の方法で、「ねずみ返し」というねずみよけも施されていました。
中は、北倉・中倉・南倉という3室に別れていて、屋根裏部屋も含めて3階建てになっています。
でも、それだけでは、お宝は守れなかったでしょうね。
さらに、お宝は「唐櫃(からびつ)」というキャビネットのような入れ物に入れられていて、その唐櫃が、湿気を一定に保ち、害虫からも防ぐという役目を果たしていたんです。
また、火事に遭わなかったという事も奇跡ですね。
一度、鎌倉時代に雷が落ちてボヤ騒ぎがあったようですが、大仏殿の2度の火災の時も何事もなく、地震でも大きな被害に遭いませんでした。
現在、宝物は、昭和に建てられた西宝庫と東宝庫に最新の空調設備の中、厳重に保管され、正倉の中には唐櫃だけが残されています。
正倉院の宝物の管理は・・・宮内庁の正倉院事務所が管理しています。
正倉院のお宝は、本来、天皇家の所有物・・・今風に言えば「聖武コレクション」ですから、現在も、毎年10月初め頃から宝庫の扉を開けて、宮内庁の職員が一つ一つ点検作業を行い、修復が必要な物があるかどうかチェックしているんです。
そのチェックの期間を利用して、毎年秋に奈良国立博物館で正倉院展として公開しているんです。
宝物の種類は・・・まさに多方面に及んでいます。
屏風などの調度品、筆・硯といった文具、琵琶・琴・笛とった楽器、碁・双六などの遊具。
弓・槍・刀などの武具や食器などの日用品、仏具や香料、お薬まであるんです・・・もちろん文書も綺麗に保管されています。
←こちらは、以前【日本の輸入品好きは昔から】(3月8日参照>>)で描いた瑠璃杯(るりのつき)のイラスト・・・ペルシャから来たグラスです。
大きな画像はイラストギャラリーにあります。
「奈良はシルクロード(絹の道)の終着点」と言われるように、宝物の中には、ペルシャやインド・中央アジアを経て中国から輸入された外国製品も数多く含まれています。
この事は、正倉院に残る文書でもわかるのですが、どれが輸入品でどれが国産品なのか?という区別は、文書では明確にされておらず、様々な角度からの検証によって区別がつけられている・・・という現在進行形です。
たとえば、教科書にも載っている有名な「鳥毛立(とりげだち)女屏風」などは、中国様式の女性が描かれていることから、長年、中国からの輸入品と思われていましたが、鳥毛装飾に使用されているヤマドリの羽根が、近代の分析結果で、日本産のヤマドリの羽根である事が判明し、ごくごく最近になって「これは国産だったのです!」てな、事もあるわけです。
最後に・・・
この正倉院を開けて中を見た人は・・・先ほども書きましたように、正倉院の宝物は本来、天皇の所有物ですから、現在のように一般公開される前は、天皇家の関係者以外で「正倉の扉を開けて中を見た人」っていう人は、ごく少数なんです。
天平宝字三年(764年)に、「藤原仲麻呂の乱(9月11日参照>>)のために刀や弓などの武器が取り出される」という事がありましたが、まだ、八年しか経っていない事を考えると、この頃の武器はお宝というよりは当時の実用品なので、「開けて、見た」というのとは、また別の物だと思います。
文治元年(1185年)に、「後白河法皇が正倉の筆と墨を使って、修復された大仏を開眼する」というのもありますが、これは東大寺の公式行事ですし、法皇は天皇家の子孫なので、やはり「開けて、見た」というのとは別物ではないかと・・・・
・・・で、上記の2回を除くと・・・
- 寛仁三年(1019年)、藤原道長が宝物を見る。
- 至徳(元中)二年(1385年)、足利義満が宝物を見る。
- 永享元年(1429年)、足利義教(よしのり)が宝物を見る。
- 寛正六年(1465年)、足利義政が宝物を見て、「黄熟香(おうじゅくこう)」を削り取る。
- 天正二年(1574年)、織田信長が宝物を見て、「黄熟香」を削り取る(3月28日参照>>)。
- 明治十年(1877年)、明治天皇が宝物を見て、「黄熟香」を削り取る。
・・・と、まぁ、最後の明治天皇は、子孫ですから宝物を見ようが削り取ろうが、また別格ですが、ズラリと並んだこの名前・・・まさに、時の最高権力者って感じですね~。
ところで、この歴代権力者が興味を示す黄熟香とは・・・東南アジア原産の香木です。
炊くと良い香りがします。
今ハヤリのアロマですね。
正倉院の物は長さ156cm、重さ11.6㎏と大変大きく、これほどの大きさの物は珍しいそうです。
正倉院の黄熟香には、特別に『蘭奢待(らんじゃたい)』という名前がついているのですが、この「蘭奢待」の字・・・
よ~く見てください。
漢字の中に東大寺の文字が隠されているんです。
気づきましたか?
今日のイラストは、
正倉院の宝物によく使われている『唐花文(からはなもん)』という紋様です。
皆さんよくご存知の『唐草文(からくさもん)』・・・これは、花や葉っぱをつるのような曲線でつないだ紋様ですね。
唐草は、ギリシャやローマに始まってペルシャから中国に伝わった紋様です。
それに対して、この唐花は中国で発祥した東洋独自の紋様・・・花びらがいくつにも重なって咲く大きな花の紋様です。
イラストは、『紅牙撥鏤尺(こうがばちるのしゃく)』という「ものさし」の唐花模様を参考に書かせていただきました。
正倉院の場所や地図はホームページでupしています・・・よろしければ、コチラからどうぞ>>
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コメント
正倉院の宝物について何の知識も無かったのですが、楽しく拝見させていただきました。
歴史の勉強も苦手でしたが興味のあることで知識が増える喜びを味わうことができました。
ありがとうございました。またお邪魔させていただきます。
投稿: りえ | 2010年2月15日 (月) 20時57分
りえさん、こんばんは~
お役にたててうれしいです。
元気の出るコメントありがとうございました。
また、遊びに来てくださいね。
投稿: 茶々 | 2010年2月15日 (月) 22時33分
最初に開けた人は岡倉天心とフェノロサらしいですよ〜
投稿: K | 2016年2月10日 (水) 19時36分
Kさん、こんばんは~
確かに…近代における美術品の学術調査として…なら、そうだと思います。
岡倉天心とフェノロサの日本美術への救世主っぷりはコチラ>>を見ていただけるとありがたいですm(_ _)m
投稿: 茶々 | 2016年2月11日 (木) 01時26分
茶々さん、こんにちは。
聖武天皇は囲碁が好きだったようですね。今囲碁関連の本を読んでいてそういえばと思いました。
神経質な聖武天皇には安らぎだったと思います。
本当に聖武天皇の書とか正倉院展を見ますと神経質な感じが伝わります。私も神経質なので余計にそう思います。
この時代ですが女帝が多かったのも何となく理解できる感じがします。
多分普段は優しいでしょうが、いらいらした時には手に負えなかったのでしょう。長屋王の所でも書きましたが、長屋王はバランス感覚が良いと思いますが、聖武天皇は今だと象徴の方がふさわしい感じがしました。
投稿: non | 2017年2月12日 (日) 12時15分
nonさん、こんにちは~
正倉院には碁盤をはじめ囲碁関係の宝物もたくさんありますね。
投稿: 茶々 | 2017年2月12日 (日) 14時14分