孫子の兵法10「地形篇」
今日は、『風林火山・孫子の兵法』の『地形篇』をご紹介させていただきます。
・‥…━━━☆
地形篇は、その題名の通り、最初は地形について語られますが、「こんな地形では、こう戦え」などと、そのまま読んでみても、現代の私たちには、あまりピンときません。
地形を、そのまま地形と見るのではなく、「このような状況では・・・」あるいは、「このような場合には・・・」という風に介錯してみると理解しやすいかも知れません。
孫子では、大きく別けて6種類の地形があるとしています。
『孫子曰く、地形には、
通なる者有り、
挂なる者有り、
支なる者有り、
縊なる者有り、
険なる者有り、
遠なる者有り。』
・通(つう)・・・敵からも味方からも、行き来しやすい地形。
ここでは、敵より先に着いて高地に布陣し、補給路を
確保して戦えば有利。
・挂(かい)・・・進攻しやすいが、撤退し難い地形。
ここでは、敵の守りが薄ければ有利、守りが強固であ
れば不利。
・支(し)・・・敵にも味方にも不利な地形。
ここでは、敵が誘いをかけて来てもそれには乗らず、
逆に敵を誘い出してから攻撃を仕掛ける。
・縊(あい)・・・くびれた地形。
ここでは、先に入り口を固めてから敵を待つ。
もし、敵が先に来て、すでに入り口を固めていたらす
みやかに撤退、まだ入り口を固めていなかったら攻
撃する。
・険(けん)・・・けわしい地形。
ここでは、敵より先に到着し高地に布陣して敵を待つ。
もし、先に敵が到着していたなら撤退する。
・遠(えん)・・・地元から遠いアウェイな場所。
ここでは、相手の勢力が均等であれば、不利なので
戦わない。
そして、もう一つ。
負け戦になる六つの状況というのもあるとしています。
『故に兵には、
走なる者有り、
弛なる者あり、
陥なる者あり、
崩なる者有り、
乱なる者あり、
北なる者あり。
およそこの六者は、天の災(わざわい)にあらず、
将の過ちなり。』
- 走(そう)・・・10倍の勢力の敵と戦わなければならなくなった時。
- 弛(し)・・・兵が強いのに、軍の幹部が弱い時。
- 陥(かん)・・・軍の幹部が強いのに兵が弱い時。
- 崩(ほう)・・・トップが幹部の能力を知らず、幹部はトップの命令に従わず勝手に攻撃したりする時。
- 乱(らん)・・・甘やかしてばかりの将軍で規則も徹底せず、よって兵を統率できない時。
- 北(ほく)・・・トップが敵の情報を知らず、こちらが劣勢なのに優勢な敵と戦えと命令し、向かう先を見失っている時。
・・・で、これらは、全部、たまたまの偶然ではなく、君主や将軍が自ら引き起こしている状況だと言うのです。
今まさに、湊川の戦いに挑む楠木正成を(5月25日参照>>)・・・大坂夏の陣に挑む真田幸村を(5月6日参照>>)思い出しました。
その時、正成は、「天皇は、この正成に討死せよとのお考えである」と、死を覚悟して出陣し、幸村は独断で討って出るも、奮戦中にやはり退却命令が出て、しかたなく大坂城に戻っています。
結局この両方ともが負け戦となったのは、ご存知の通りです。
・・・で、孫子は言います。
『戦道必ず勝たば、主は戦うなかれと曰(い)うとも必ず戦いて可なり』
「勝てる見通しがあるなら、君主が反対しても戦うべきである」と・・・。
もちろん逆も・・・勝てる見込みがないのであれば、君主が戦えと命令しても戦うべきではないのです。
現地を知らない君主が、
敵の情報を調べもせず、
少ない兵で多い敵に向かい、
弱いのに強がって先頭に立とうなんてしたら必ず負けます。
『地形は兵の助けなり』
先ほどの六つの地形、六つの状況は、勝利への助けとなる物です。
地形を知り、状況を判断し、君主に反対してでもやる時はヤル!
その結果、功績を挙げても名誉を求めず、失敗しても責任から逃れようとしない・・・
『・・・ただ人をこれ保ちて而して利、主に合うは、国の宝なり』
「ただ、人々の安全を願い、君主の利益のために働く、これこそ国の宝である」
たしかに、「功績を挙げても名誉を求めず、失敗しても責任から逃れようとしない」ような上司なら、下の人間も「ついて行きます!」と言いたくなりますわな。
・・・で、この地形篇の後半には、このつながりで、将軍から兵の・・・つまり部下の扱い方が書かれています。
『卒を視(み)ること嬰児(えいじ)の如し・・・卒を視ること愛子の如し・・・』
「赤ちゃんのように・・・わが子のように・・・」
そうやってこそ、兵士は、将軍と生死をともにしようと思うようになるのです。
かと言って、可愛がってばかりで命令せず、規則に違反しても罰則をあたえないようであれば、わがまま息子(娘)に育ってしまい、用をなさないようになると、ちゃんと釘を刺しています。
上杉鷹山が、下級武士たちとともに畑を耕した話(3月12日参照>>)を思い出しますね~。
まさに理想の上司です。
味方の兵士の事を知り尽くしていても、敵の強さを知らなければ勝敗は五分と五分。
敵の強さを知っていても、味方の兵士の事を知らなければ、やはり勝敗は五分と五分。
さらに、敵の事も味方の事も充分知り尽くしていても、先ほどの地形の事を把握して、地の利を生かす事ができなければ、やっぱり勝敗は五分と五分。
ですから、敵・味方・地形を知っていれば、
『動いて迷わず、挙げて窮せず』
「事を起こしてから迷う事は無いし、挙兵してから窮地に立たされる事もない」
のだそうです。
そして、最後に地形篇のまとめとも言うべき金言で、この章は締めくくられます。
『彼を知り、己を知れば、勝、乃(すなわ)ち殆(あや)うからず。天を知りて地を知れば、勝、乃ち窮(きわ)まらず』
「敵と味方を把握し、時を待って地の利を活かせば、必ず勝つ」
以上、今日は『地形篇』をご紹介しました。
今日のイラストは、
中国のイメージで『山水画』風な絵を書いてみました~。
いつか行ってみたいな・・・
・・・・・・・
★続編はコチラ→『風林火山・孫子の兵法11九地篇』>>
ブログにupした個々の記事を、本家ホームページで【孫子の兵法・金言集】>>としてまとめています・・・よろしければご覧あれ!(別窓で開きます)
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