香りにうるさい平安貴族~香りの記念日にちなんで~
平成四年(1992年)10月30日に、第7回国民文化祭「世界香りフェアIN能登」が開催された事にちなんで、今日10月30日は『香りの記念日』なのだそうです。
なので、今日は平安時代の香りのお話を・・・
えっ・・・「なんで平安時代なんだ?」って?
それは、おそらく日本の歴史上、平安時代が最も香りにうるさい時代だったと思われるからです。
確かに、この平成の世の女性・・・いや、最近は男性も、シャネルだ何だと香りにはウルサイような気がしますが、平安のそれは、ハンパじゃないんです。
なんせ、お風呂にめったに入りませんから・・・
部屋の隅で、大をやっちゃってますから・・・(12月7日【平安貴族の住宅事情】参照>>)
そのキョーレツなニオイを隠すためには、オシャレなんて生易しい感覚ではなく、生きてゆく上の必須アイテムです。
あの紫式部の『源氏物語』に登場する女三宮。
彼女は飼っていた猫までが匂いたつ香りを放っていたとか・・・。
さすがに、猫を炊き込めたわけじゃないでしょうけど、猫に匂いが移るくらい部屋の中に香がたち込めていたという事でしょうね。
『倭名抄(わみょうしょう)』という文献によれば、香りは42種類あったそうですが、だいたい普段に使われるのは代表的な6種類。
【沈香(じんこう)】【丁字香(ちょうじこう)】【薫陸香(くんろくこう)】【貝香(かいこう)】【白檀香(びゃくだんこう)】【麝香(じゃこう)】の六つで、これを『六和香』と呼ぶのだそうです。
現在でも聞きなれた名前もありますね。
もちろん、これは女性だけでなく・・・いえ、むしろ平安時代には男性のほうが香りに夢中だったかも知れません。
なぜなら、多くの男性は、何種類もの香を混ぜ合わせてオリジナルの香りを作っていたからです。
そう、以前、結婚の歴史(1月27日参照>>)で書きましたように、当時の結婚は通い婚。
その一発目・・・もとい・・・初日は、夜這いという形で彼女の家に参上するのです。
現代人が夜這いと聞くと、男が女の部屋に勝手に忍び込んで、反強制的に・・・というような陰湿の方向へ想像しがちですが、実際の夜這いは、部屋の外から合図を送り、女性がOKしなければ絶対に中には入れません。
その時の、女性のOKする条件として、声の良さ、歌のうまさ、そして香りです。
なんせ、外は電灯などない真っ暗闇です。
もちろん、部屋の中も・・・ですから、顔なんてまったく見えないんですよ。
最初の一日目は、香りの良さで、男性のセンスを判断し、その次からはその香りで、昨日の男性と同一人物かどうかを判断するのです。
これなら、男性諸君が競ってオリジナルの香りを研究した事にもうなずけますね。
ちなみに、香木の焚き方は大きく分けて「空薫(そらだき)」と「聞香(もんこう)」の2種類・・・平安時代に流行した衣装や部屋を焚きこめて香りを楽しむ、上記のような物が空薫です。
(やり方は2月25日のページで>>)
香炉を顔のそばに持っていき、一つ一つの香りの違いを楽しむのが聞香で、コチラは室町時代頃から盛んになりました。
そんな聞香の中から生まれたのが『香合わせ』というゲームです。
平安時代には、それこそ数多くの「香合わせ」なるゲームがあったようですが、その中で最も人気が高く、後世まで残った『源氏香』というゲームのルールが現在にも伝わっています。
まず、5種類の香をそれぞれ5つずつ・・・つまり25個の香りの袋を作り、それらを、一旦混ぜた後、その中から、ランダムに選び出した5つの袋の香りを順番に香炉で炊き、その香りの並び順を当てるのです。
答えは5本の直線が書かれた解答用紙に書きます。
1つ目の香りと2番目の香りが同じだと思ったら、一番右の縦線と2番目の縦線の上に横線を引いて2本の縦線を結ぶのです。
違う香りだと思ったら、横線は引かずそのまま・・・
5つを嗅ぎ終えたところで、右図のようなバーコードのような図ができあがるわけですが、風流なのは、この図一つ一つに名前がついている事。
これが、『源氏香』というゲームなのは、この図の名前に源氏物語五十四帖の帖名がつけられているからなのです。
右図のように、5つの香りが全部違う場合は、横線をまったく引きませんから「帚木(ははぎ)」という図が完成します。
逆に、5つ全部が同じ香りだったらすべてに横線が引かれているので、「手習(てならい)」という図になります。
「鈴虫」の場合は、1番目と5番目が同じで、2番目と3番目も同じ、4番目が別の香りという事です。
ただし、この名前は、ポーカーの「やく」の名前のように、できた物によって強い弱いがあるわけではありません。
このゲームは純粋に香りを当てる・・・その嗅ぎわけの能力を競うゲームで、できた図によって勝ち負けが決まる遊びではありませんでした。
「香合わせ」・・・風流ですね~たぶん私は苦手ですが・・・
今日のイラストは、
かわいい模様の『にほひ袋』を書いてみました~
そろろそ加齢臭にも気をつけなくっちゃ!
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‥…━━━☆
以前ご紹介した平安の遊び『貝合わせ』については6月29日のページへどうぞ>>
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コメント
こんな方法もあったようです。わざわざ焚く手間要らずのやり方だ…と、僧侶から貴族まで取り入れたとか。その方法は、香を練って丸薬状にして毎日飲むそうで、3日で口の中が香りで満ち、5日程で顔を洗った水が香りたち、ひと月程で全身から香りが匂いたつ…そうです。ほんまかいな(笑)。
投稿: クオ・ヴァディス | 2015年5月28日 (木) 12時01分
クオ・ヴァディスさん、こんにちは~
今でも、飲むヤツ、売ってますよ!
「水に溶かして飲むと、かく汗がバラの香りがする」という粉状の飲料が、化粧品コーナーに売ってます。
いつの世も、人の思いは変わらないのですね。
以前、空薫を体験>>しましたが、平安時代の練香って、まるっきし『正露丸』だったので、今だと「お腹が調子悪い時の匂い」って言われる匂いかも知れませんが…ww
投稿: 茶々 | 2015年5月28日 (木) 16時07分