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2007年11月16日 (金)

労働者のヒーロー・煙突男登場!

 

昭和五年(1930年)11月16日、日本初の『煙突男』が登場しました。

・・・・・・・

時は世界恐慌の真っ只中です。

一年前の、昭和四年(1929年)の10月24日、突如として起こったニューヨーク株式取引所での株価大暴落!

「暗黒の木曜日」と呼ばれたこの日から、一旦はもち直したものの、五日後に再び大暴落=「悲劇の火曜日」が発生します。

アメリカから押し寄せた世界恐慌の波は、またたく間に日本を飲み込み、不況にあえぐ日本はさらなる打撃を受けるのです。

そうなると、当然、経営者は労働者の犠牲によって、この不況を切り抜けようとしますが、

安い賃金に過酷な労働で我慢の限界に達した労働者たちだって、当然、各地で、反ストやデモ行進、籠城など・・・経営者に対して、徐々に過激な手段に出るようになります。

そんなこんなの昭和五年(1930年)11月・・・
富士紡川崎工場では、2千人の女子工員が、待遇の改善を叫んで、2ヶ月にも及ぶストライキの真っ最中だったのです。

しかし、もはや行動を起してから2ヶ月・・・最初に事を起こした時のテンションの高さは徐々に下がり始め、逆に組合側の疲労の高さは頂点に達しようとしています。

「もう、要求は聞き入れられないのか?・・・」
女子工員たちのなかにも、あきらめムードが漂います。

そんなこんなの疲れきった朝、突然、その男は救世主のように現れます

男の名は、田辺潔
横浜市電気局に勤める25歳に若者でした。

彼は、その工場の高さ40mの煙突にのぼり、赤旗を振って「賃下げ反対!首切り反対!」叫びます。

もちろん、経営者側は降りるように説得しますが、「組合の要求が受け入れられるまで降りない」と、男は踏ん張ります。

さらに、警察まで登場しての説得にも応じず、130時間以上も、この煙突の上で粘り続けました(トイレが心配・・・)

しかし、相手は鬼の経営者と泣く子も黙る特高警察・・・「たった一人の男が頑張ったところで、やっぱ、ムリなんじゃないの?」と思った瞬間!

11月16日、闘争は急転直下で解決します。

経営者側の全面降伏です。

経営者側が、組合側のすべての要求を、ほぼ呑む形で、男は4日ぶりの地上に降り立ちます。

なんと、経営者側に要求を呑むように説得したのは、警察でした。

それこそ、泣く子も黙る特高警察に、経営者も言う事を聞くしかありません。

実は、この工場の側を、東海道線が走っていて、煙突からは、まさに真下にその線路が見下ろせる形になっていました。

11月16日は、その東海道線を、岡山から帰路についた天皇陛下のお召し列車が通る事になっていたのです。

時代は、大日本帝国の時代・・・天皇陛下を上から見下ろすなど、とんでもない事。

まして、彼は目立ちまくりの赤旗を所持しています。

もし、煙突男が陛下の目にふれでもしたら・・・責任を問われるのは、地元警察だけではありません。

内務省のお役人だってヤバイ。

お召し列車の通過に慌てる警察・・・それを聞いて慌てる経営者側。

経営者側が無条件降伏を申し出たのは、お召し列車通過の2時間前・・・男が、煙突から降りたのは、お召し列車通過の、わずか10分前の事でした。

はからずも、労働者たちに勝利をもたらした天皇陛下は、何事もなく無事、多摩川橋梁を通過されたのです。

結果、柳の下の2匹目のドジョウを狙って、第二・第三の『煙突男』が登場したのは、言うまでもありません。

翌・昭和六年(1931年)には、富士製紙神崎工場の闘争で、隣の東洋紡の煙突に・・・。

昭和七年(1932年)には、尼崎日本エレベーターの闘争で、大阪医科大学病院の煙突に・・・。

まぁ、これらの時は、お召し列車が通らないので、さすがに最初の時のような「会社側の前面降伏」という快挙には至りませんでしたが、経営者側にとって、労働運動が、いかに脅威であるかを見せつける結果となった事は確かでしょう。

ところで、一夜にして労働者のヒーローとなった彼のその後は・・・

3年後の昭和八年(1933年)、横浜・山下公園の掘割で変死体となって発見されるのです。

当時の新聞記事では、「自殺」となっていますが・・・果たして・・・。

ヒーローという物は敵も味方も作ります。

彼を取り巻く環境が180度変わり、自分の思い描いていたその後とは、まったく違う人生になったのも確かでしょう。

真実は、彼自身の心の中に・・・。

Entotuotokocc 今日のイラストは、
『煙突男』で・・・

安易な発想でこんな感じになりました~
もう少しカッコイイ場面を描ければ良かったのですが・・・
煙突に登る・・・となると、この風景しか思いつきませんね~
 .
 

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コメント

この煙突男なんですが、以前交流協会の閲覧室のビデオで見たことがあります。

私は高所恐怖症なので、ああいった真似はさすがに出来ません。

投稿: 台湾人 | 2010年4月18日 (日) 23時57分

台湾人さん、こんばんは~

子供の頃の私は高いとこ大好きだったんですけどね。
いつしか、足がすくむようになりました。
これが、大人になったという事でしょうか(*゚ー゚*)

投稿: 茶々 | 2010年4月19日 (月) 01時54分

私は1983年生まれで1990年代の終焉と共にますます1990、1980、1970、1960や1950年代の日本の文化と生活に憧れるようになりました。

「ドラえもん」や「キテレツ大百科」のようにタイムマシーンさえあれば私は躊躇せず1950年代の日本にタイムスリップして生活してみたいと思います。

投稿: 台湾人 | 2011年2月15日 (火) 18時55分

台湾人さん、こんばんは~

1970年代は、敗戦で生まれ変わった日本の青春時代だったような気がします。

何もかもが新鮮で、何もかもに夢中で…いきいきしていた時代が懐かしいですね。

投稿: 茶々 | 2011年2月16日 (水) 01時18分

前略させて大変失礼とは存じておりますが、今回の東北大震災で日本各地に甚大な被害を及ぼしたようですが、そちらの方は大丈夫ですか?

テレビで見ていると本当に心が痛みすごく残念に思います。

投稿: 台湾人 | 2011年3月17日 (木) 10時07分

台湾人さん、ご心配ありがとうございます。

当日の大きな地震は、ここ大阪も少し揺れましたが、今までに何度も経験した事のある震度3という数字で、慌てる事もありませんでした。

東北の現状は、本当に心が痛みます。
1日も早く、被災された方が平静に戻られる事を願っています。

投稿: 茶々 | 2011年3月17日 (木) 16時01分

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