日本の七夕伝説・天稚彦物語~牽牛を彦星と呼ぶのは?
本日は、七夕にちなんで、日本の七夕伝説・『天稚彦物語』を、ツッコミを交えて、ご紹介します。
*七夕行事の起源・中国の七夕伝説については、昨年の7月7日のページで>>
天稚彦(あめわかひこ)は、古事記では天津国玉神(あまつくにたまのかみ)の子・天若日子という表記で登場します。
天照大神(あまてらすおおみかみ)から、葦原中国(あしはらのなかつくに・日本の事)を統治するために高天原(たかまがはら)から派遣されたにも関わらず、出雲を統治していた大国主神(おおくにぬしのかみ)の娘・下照比売(したてるひめ)と、あっさりと恋に落ち、まったく命令を遂行せず・・・
「お前、何やっとんねん!はよ、征服せいや!」
と、高天原から催促に使わされた雉名鳴女(きじしななきめ)を矢で撃ち殺してしまい、それを知った高天原から撃ち返された矢に当たって命を落す・・・という何とも、いいところのない神様(高天原に反発したため神様扱いされない場合もあり)です。
まぁ、この後に、建御雷之男神(たけみかづちのをのかみ)の国譲り、邇邇芸命(ににぎのみこと)の天孫降臨へと続くので、それのひきたて役にされているのがミエミエのところもあるのですが・・・
そんな天稚彦ですが、室町時代の『御伽草子』で見事主役に大抜擢!
この物語は、中国の七夕・・・あの有名な牽牛と織女の物語をベースに、昔話のありとあらゆる要素を盛り込んで、和洋中で「もう、お腹いっぱい~」ってな感じの壮大なSFアドベンチャーです。
・・・・・・・・
昔あるところに三人の美しい娘を持つ長者がいました。
ある日、その家の下女が洗濯をしに湖に行くと、口に手紙をくわえた大蛇が現れ、
「言う通りにせんと、絞め殺すゾ!」
と脅します。
下女が、慌てて逃げ帰り、長者にその手紙を見せますと・・・
「娘を三人ともよこせ!さもないと皆殺しにする」
と、書かれてありました。
姉ふたりが、「絶対にイヤ!」と拒む中、「なら、私が参ります」と、末の娘が犠牲になる事に・・・
【ありがちな化け物・人身御供ストーリー】
娘が湖のほとりで待っていると、やがて雷鳴轟き、大波が立ち、大蛇が姿を現します。
パクリと食われると思いきや、意外にも、普通に・・・
「姉ちゃん、もし、刀持っとったら、この頭を斬ってみぃ」
娘が、震える手で大蛇の頭を斬り落すと、なんと、そこから、この世のものとは思えないイケメンが・・・
「我こそは、海竜王の息子・天稚彦である!」ジャ~ン!
【出た~!ヘンな物からイケメン登場!】
ふたりは、その場で恋に落ち、その場でシッポリ・・・娘は別の意味で、パクリと食われる事に・・・(#^o^#)ポッ。
天稚彦と娘は、しばらくの間、天稚彦が持っていた宝物で、裕福な新婚生活を楽しんでいましたが、やがてある時・・・
「実は、俺は天にも用事があって、そろそろ帰らあかんねん・・・けど、絶対戻って来るって・・・もし、21日経っても戻ってけぇへんかったら、西の京のはずれに行くと一夜瓢(いちやひさご・一夜で天までのびる瓜で夕顔の事らしい)を持ってる女がおるから、それを買うて天まで昇って来いや。
それと、唐びつを置いて帰るけど、絶対に開けたらあかんで」
【見てはいけないシリーズだ!】
そう言って天稚彦は、天へ去っていきました。
彼が去った後も、残された宝物で、幸せそうにしている娘を妬んで、やってきた姉二人が、宝物や着物を、さも欲しそうにさわりまくります。
【シンデレラっぽいゾ・・・】
やがて、二人の姉は、娘からムリヤリ鍵を奪い、止めるのも聞かずに唐びつを開けてしまいます。
しかし、出たのは白い煙だけ・・・
【浦島太郎・・・】
中には何もありませんでした。
(ないんかい!)
そうこうしているうちに、結局、21日経っても、天稚彦が帰って来ない事に我慢しきれなくなった娘は、言われた通りに西の京へ行き、一夜瓢を買い求め、一晩で天まで伸びたツルに乗って天上界へと向かいます。
【ジャックと豆の木…もしくは、スーパーマリオ】
しかし、天上界も広い・・・
どこに行けば、彼がいるのかわからず、途方にくれながら、しばし歩いて行きますと、白い狩衣(かりぎぬ)をつけた夕づつ=宵の明星と出会い、彼の居場所を訪ねますが「知らない」という返事・・・。
次に、箒木(ほうき)を持った童子・ははき星=彗星?に出会いますが、やはり、わからず、次の七人の童子・すばる星=昴も知りませんでした。
最後に、玉の輿に乗った立派な人物である明月(あかつき)の明星に出会って、やっと居場所がわかり、二人はめでたく再会します。
【う~ん、SFファンタジーアドベンチャーだ!】
(夜空にきらめくファンタジ~byゴ~★ジャス)
しかし、それも、つかの間、天稚彦のオヤジが登場!
これが、何と!鬼・・・(って竜王やったんちゃうんかい!)
とにかく、鬼なので・・・見つかってはマズイと(なんで?紹介したれや!)、オヤジが天稚彦の部屋にやってくるたびに、娘を脇息(ひじかけ)に変身させたり、枕に変えたりして隠していましたが、ある日、うっかり昼寝をしていて見つかってしまいます。
するとオヤジは・・・
「お前が好きな子なら、しゃぁないけど、一つ、嫁にふさわしいかどうかテストする!」
と言いだします。(やっぱり先に紹介しとくべき)
まずは、牛舎で飼っている1000頭の牛を、朝には野に放ち、夜には再び牛舎に追い込むカウボーイの仕事を娘に言いつけます。
「とても、女の私にはムリだわ・・・」
と困惑する娘に、天稚彦は、そっと自分の着物の袖を渡します。
そして、その袖を「天稚彦の袖々」と唱えながら振ってみると、牛は見事に言う事を聞いてくれて、娘の指示通りに動いてくれたので、何とかこなせました。
次に、米倉にある米を、すべて、別の米倉へ移すよう命じられます。
しかし、これも、天稚彦の袖を振ると、どこからともなく、大量のアリが現れ運んでくれました。
最後に、娘は蛇やムカデのいる部屋に閉じ込められてしまいますが、これも、天稚彦の袖のおかげで、蛇もムカデもおとなしくなり、無事、一夜を過ごす事ができました。
【古事記のオオクニヌシの試練にそっくり】(12月21日参照>>)
さすがにオヤジも観念して・・
「しゃぁない。息子の嫁として認めよ・・・ただし、二人が会うんはひと月に一度やぞ!」
すると、娘は・・・
「えっ?何て?一年に一度って言いはりましたん?」
と聞き違いをしてしまいます。
(ひとつき→いちねん・・・一文字も合うてへん!娘、耳掃除せぇ!)
(天稚彦も天稚彦や!なんでお前も聞いとけへんねん!)
これ幸いとオヤジは一年に一度という事にして、一つの瓜を手にとって投げると、中から水がドバッと出て、天稚彦と娘、二人の間の天の川となりました。
こうして、天稚彦は彦星に、娘は織女星となって、一年に一度、7月7日の夜にだけ会う事になったのです。
・・・・・・・・・・
うぇ~い・・・もう、盛りだくさんすぎて、何が何やら・・・
でも、一つわかりました!
これで、牽牛の事を日本では彦星って呼ぶんですね・・・天稚彦の彦なんだ・・・
(でも、織姫は一回も、機織ってない気が・・・)
・・・と、なんだか、突っ込みどころ満載で、海外の童話も交えての最近作られたような感じのお話でしたが、ベルリン東洋美術博物館には、15世紀半ばに造られた『天稚彦草子』なるすばらしい絵巻物も現存しており、由緒正しき昔話なのです。
中国から伝わった七夕伝説もいいですが、今年は一つ、日本の彦星と織姫に思いを馳せて、ロマンチックな一夜を過ごしてみようではありませんか。
今日のイラストは、
やはり、日本の七夕らしく・・・
短冊揺れる笹の葉に、織姫と彦星で・・・
.
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コメント
こんにちわ~♪
こ・・これはスゴイですね~♪
いや~・・全貌を初めて知りました。
そういうお話やったんか~♪
絵の一部はチラっと写真を見て知っていたけれど、御伽草子独特の、なにやらカタい絵であまり興味を持ちませんでしたが、こんなに面白かったのですね~♪
これって、キューピッドとプシュケのお話そのものではないですか~♪二人の姉にそそのかされて禁をおかすところなど、まさにそのとおりだし、親に試される(鬼オヤジと美の女神アフロディティだという違いはありますがって・・大違い?でも、アフロおばさんも、ものすごく嫁イジメするしなあ)のもそうだし、怪物と思っていた恋人の素顔が美青年だというのもそうだし・・うわ~・・これは興味深々ですね。
有り難うございました~♪
投稿: 乱読おばさん | 2008年7月 7日 (月) 10時44分
乱読おばさま、こんにちは~
私は、記紀神話以外には、それほどくわしくないのですが、この物語には、ローマ神話をはじめ、世界の神話の要素が盛り込まれてるようですね。
この物語が載っていた本の解説部分でも・・・
「パクリだとか各地のツギハギだとかという事よりも、室町時代に世界各地の神話が日本に伝わっていたという事に驚く」
みたいな事が書かれていました。
私も、その部分に興味を持ちました~。
投稿: 茶々 | 2008年7月 7日 (月) 13時56分
大爆笑しました♪
昔話の世界の共通性って、たとえば、ヘラクレス神話→
孫悟空→金剛力士像みたいに、
流れ流れて、今回の七夕ストーリーになったのでしょうね。。
それにしても、盛り込み過ぎというか、
サービス満点というか・・・(^^)
投稿: りゅーたん | 2008年7月 7日 (月) 17時47分
りゅーたんさん、こんばんは~
ホントお腹いっぱいになるストーリーですよね。
インド映画みたい・・・
でも、最新のCGを使えば、けっこうオモシロイ映画になる気がしますね~
投稿: 茶々 | 2008年7月 8日 (火) 00時57分