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2009年12月29日 (火)

小林一茶が「おらが春」に込めた新年への希望

 

文政二年(1819年)12月29日、小林一茶の句集「おらが春」が成立しました。

・・・・・・・・・

小林一茶(こばやしいっさ)と聞けば、なんとなく「やさしそうなニコニコしたおじいさんが、のんびりと俳句を詠んでる」みたいなイメージを思い浮かべてしまいますが、そのイメージとはうらはらに、実際には、家族内のトラブルに振り回され続けの生涯を送った人なのです。

信州柏原宿の貧乏な農家の長男として生まれた一茶は、3歳で母親を亡くし、その後、8歳で迎えた継母との折り合いが悪く、15歳で江戸に奉公に出されてしまいます。

やがて、25歳の時に俳諧師の二六庵小林竹阿(ちくあ)弟子となり俳句を学びはじめ(弟子ではないとの説もありますが・・・)、29歳で一旦故郷に戻りますが、翌年から36歳までの十数年間、俳句の修行のため近畿・四国・九州などを旅しました。

39歳の時、病に倒れた父の看病をするため、再び故郷に戻りますが、わずか1ヶ月後に父は死亡・・・その後、12年間に渡って、亡き父の遺産を巡って、継母と争う事になります。

私としては、貧乏な農家で、争うほどの遺産がどのくらいあったのか?気になるところではありますが、それは、そこ、ご本人たちにしかわからない意地張り合いのような物があって、一茶も継母も、お互いに「あんなアホンダラにビタ一文、渡すかい!」ってな感じだったのかも知れませんね。

遺産問題が解決した文化十年(1813年)、50歳にして一茶は故郷に戻り、ようやく、初めての結婚をします。

妻・きくとの間に、3男1女をもうけますが、生まれた子供は次々と早世し、妻にも先立たれるという、またまた家庭内の不幸に襲われます。

2番目の奥さんとは、わずか半年で離婚し、3番目の奥さん・やをとの間に、やっと女の子が誕生しますが、その時には、一茶は、すでにこの世の人ではなく、しかも、文政十年(1827年)閏6月1日に、柏原宿を襲った大火で家が消失して、焼け残った土蔵で生活している最中の同年11月19日・・・65歳での死でした(11月19日参照>>)

Kobayasiissa300a ・・・で、今回の「おらが春」は、文政二年の元日から年末までの身辺雑記と俳句を記したもので
♪目出度(めでた)さも ちう位也(中くらいなり) おらが春♪
から始まります。

ただ、読み物として刊行されたのは、25年経ってからで、一茶の意図を汲みながらも、作品としておもしろくなるように、少し脚色して記述の順番を入れ替えたとも言われていて、すべてが、日記のように時系列で並べられているわけではないようですが・・・。

♪雀の子 そこのけそこのけ 御馬が通る♪
などの、おどけた感じのする句もありますが、なさぬ仲の継母と過ごした悲しい少年時代を思い浮かべる
♪親のない子はどこでも知れる 爪を咥(くは)へて門に立(たつ)
なんて句もあります。

また、有名な
♪我と来て 遊べや親の ない雀♪
には、「六歳・弥太郎(一茶の本名)という添え書きがされていて、幼い頃に、近所の子供たちから、母親のいない事をはやし立てられ、逃げ隠れた時の、ひとりぼっちの寂しさがひしひしと感じられます。

ただ、この文政二年の前年に長女・さとが生まれている事もあって、
♪這(は)へ笑へ 二つになるぞ けさからは♪
♪名月を 取(とっ)てくれろと なく子哉(かな)
なんて、家族のいる幸福感いっぱいの句もあります。

しかし、まもなく、さとは天然痘にかかり、1歳を過ぎたばかりで亡くなってしまい、一茶自身は、それ以前に長男も亡くしていて、その後は
♪露の世は 露の世ながら さりながら♪
♪秋風や むしりたがりし 紅い花♪

と、悲しい運命に逆らえない空しさと、亡き子供を思う句を詠んでいます。

「おらが春」で、この年の年頭に
♪ことしの春も あなた任せに なんむかけへる♪
と詠んだ一茶は、年末の今日・文政二年(1819年)12月29日
♪またしても あなた任せの としの暮♪
と締めくくります。

浄土真宗の信者であった一茶にとって、この「あなた任せ」というのは、いわゆる真宗の「他力本願」にからめての言い回しで、この句は、自身の力だけではどうにもならない、大きな力によって、その運命が、決定づけられる空しさを詠んでいると言われます。

しかし、それとともに、だからこそ、その大きな力へ、「新年こそは・・・」という、願いを込めているのでは?と思えてなりません。

「あなた任せ」なのだから仕方がないではなく、
「あなた任せ」なら、その「あなた」により良い未来へと導いていただきたい。

勝手な解釈かも知れませんが、この最後の句は、人生の空しさだけではなく、明日への希望を詠んだ句だと思いたいですね。
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