幕府と家光を支えた知恵伊豆こと老中・松平信綱
寛文二年(1662年)3月16日、第3代将軍・徳川家光を支え、江戸時代初期の幕藩体制の確立に尽力した老中・松平信綱が、67歳でこの世を去りました。
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慶長元年(1596年)に、徳川家康の家臣・大河内久綱(おおこうちひさつな)の長男として生まれた松平信綱(まつだいらのぶつな)は、父の弟で、長沢(愛知県豊川市)松平家を継いでいた正綱(まさつな)の養子となって松平姓となります。
2代将軍・徳川秀忠に嫡男・家光が生まれたのをきっかけに、家光付きの小姓となり、元服後は500石→800石へと増加され、家光が将軍となった後もつき従い、28歳で従五位下伊豆守に任官されます。
その後も、2000石→8000石→1万石と、とんとん拍子に出世街道まっしぐら・・・十年後の38歳には、合計3万石以上となり、とうとう老中になりました。
さらに、その5年後には、あの島原の乱を鎮圧した(2月28日参照>>)功績で、武蔵(埼玉県)川越藩6万石とともに老中首座の地位も獲得しました。
さらにさらに、家光の死後は、第4代将軍・徳川家綱を支え、振袖火事と呼ばれた明暦の大火の処理にも、その手腕を発揮します。
その明暦の大火では、ひょっとして、この火災は、江戸の町の区画整理をしたかった幕府の・・・と、ブログでは、ちょっとブラックな推理もご紹介しましたが、この時の幕府というのは、当然、そのトップにた信綱さんなわけですが・・・(1月18日参照>>)
そのページにも書かせていただいた信綱さんのニックネーム=知恵伊豆・・・もちろん、これは、幼い頃から才知に富んでいたと言われる信綱さんをイメージしたニックネームで、最初の官職である伊豆守と、知恵が出ずるをかけて「知恵伊豆」なのですが、冒頭にも書かせていただいたように、この先、250年と続く徳川の幕藩体制を、ここまで強固にできたのには、やはり、知恵伊豆の知恵がかなり影響していると思います。
参勤交代に代表される幕藩体制の多くが、3代将軍の家光のところで確立される事で、かなり名君のイメージを受ける家光さんですが、以前も書かせていただいたように、その多くが、すでに2代将軍の秀忠の時代に、その土台となる物ができていたわけで(4月16日参照>>)、実のところ、家光さんに関しては、アホとまでは言いませんが、あの春日局(かすがのつぼね)のいたれりつくせり子育てで、ちょっと、坊ちゃん育ち的な性格が見え隠れするところがあるのも確かなのです。
そんな家光の時代に、体制を確立する事ができたのは、やはり、補佐した知恵伊豆こと信綱さんあっての事・・・そんな彼には、「知恵伊豆」と呼ばれるゆえんとなるエピソードも、いくつか残ります。
・‥…━━━☆
未だ幼いある時、家光は、
『限りなく長き糸を巻きたる物』
を、手に持って現れ、居並ぶ小姓に向かって
「今すぐ、この長さを測れ!」
と、ご命令・・・
「限りなく長き糸」なのですから、当然、それを解きほどいて、いちいち計っていては、「すぐに!」というお坊ちゃまの命令へのお答えとはなりません。
で、ピカ~ン!
「いい方法、あるよ!」
と、信綱・・・
「とりあえず、十尋(ひろ・1尋=約1.8m)の長さで糸を切って、その重さを秤で量って、次に残り全部の重さを量って、それが十尋分の何倍の重さになるか、ソロバンで計算すればいいんだよ」
今、聞けば、
「なんだ~、そんなの小学校で習うじゃん!」
と、思われるかも知れませんが、当時の武士から見れば、計算なんてものは卑しい商人のやる事という認識があり、武士たる者の勉学には入っていない物だったのです。
しかし、信綱さんは、すでに幼い時期から、この部分も、ちゃんとマスターしていたという事なわけです。
この能力は、大人になってからも偉観なく発揮され、信綱が担当するまでは、不正な水増しで暴利を得ていた鍛冶屋のごまかしを一発で見抜き、これまでの改築費用の多くを占めていた鉄製品の代価の見積もりを、一気に低額に変更させたという話もあります。
また、ある時、かの家光公が
「庭で、能をさせたいから、1刻(2時間)以内に、能舞台造って~~~」
仰せあそばした時・・・
本来なら土練りからはじめて、骨組みに塗りこみ、乾くまで1週間はかかる白土壁を、彼は、見事に2時間で建ててみせたと言います。
もちろん、ホンモノが造れるはずはなく、城内にある蔵から、白しっくいの扉を外し、それをズラリと並べて、一つ一つを鎹(かすがい)で止めて固定した、見た目だけ完璧な能舞台だったのですが、家光様は、希望が叶って、かなりのご満悦だったとか・・・
さらに、寛永元年(1624年)、朝鮮通信使が江戸を訪問した時、その一行の中に『馬上才(ばじょうさい)』と呼ばれる、馬の曲乗りをするシルク・ド・ソレイユ顔負けのエンターティナーがいる事を知った家光は、それを見るのを、とても楽しみにしていたのだそうです。
ところが、いざ、通信使との会見が近づいて、その日づけが決定されると、その日は、大名たちの登城の日と重なり、馬場が使えない事が判明・・・つまり、家光自身は、会社の駐車場となってる広場にサーカスの小屋を建てて見るつもりでいたのが、その日は、社員が全員出勤するので、駐車場は満杯で使えないって事・・・
・・・で、早速、
「八重洲岸八町の地を馬場に相定め(約872mの土地を馬場にして)、後先の境に違土居を築立よ(両端に食い違いに交差する堤防を築け)」
と、無理難題・・・
馬場の場所を確保する事はともかく、堤防は・・・大量の土を運んで、それを堤防として形勢して、そこに芝生を植え・・・と、とても短期間で簡単にできる物ではありません。
命じられた普請奉行が途方に暮れる中、知恵伊豆登場・・・
まずは、大量の籠(かご)をかき集めて、それを堤のような形に整え(材木を台形に組んだ物を使用したとも)、そこに芝生を植えて、見事、期日までに注文通りの馬場を完成・・・家光は、無事、その馬場で、曲乗りをご覧あそばしたのだそうです。
さらに、信綱さんのスゴイところは、これらの事を、ただ単に上司の無理難題に、ごますり的に対応しているのではなく、その事業を行う時には、必ず、同僚や部下が働きやすい環境作りもセットで行っていたという事なのです。
そりゃ、そうです。
ただ単に、ご機嫌取りのため、家光の無理な注文に信綱が答えているだけなら、その指示を受ける同僚や部下も、「なんで、お前の出世のために、俺ら動かなアカンねん!」と不満ムンムンとなるところですが、それを思わせない、見事な采配を振っていたという事のようなのです。
奥村保之なる人物が記した『事語継志録(じごけいしろく)』によれば・・・
「何事も今日の事ばかりあらず、遠き慮(おもんばか)りをなしたまう」
目先の事ばかりを考えず、遠い先の事を見据える・・・
まぁ、味方の記した文献なんで、丸呑みはアレですが、
本日は信綱さんが主役なので、とりあえず褒めておきましょう( ̄▽ ̄)
それにしても、やはり・・・
長期政権を保つためには、このような方が必要なのでは?
どこかに、いませんかねぇ~平成の知恵伊豆・・・
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コメント
家光さんは結構無能呼ばわりされること多いですよね 「やっぱり三代目だ」とか「ただの男色将軍」とか「周りがすごかっただけ」とか散々に苦笑 でも正直幕府が安泰期に近づくにつれ将軍はただの飾りとなっていたのかもしれませんね 実際に政を行うのは周りですし。 そんな周りの筆頭知恵伊豆さん、絶対敵に回したくない人ですね汗 やはり学問は幅広くやって損はないのか…信綱さんだからできたんでしょうけど苦笑
商人は武士を「計算もろくにできないプライドだけの馬鹿」とでも考えていたんでしょうか。後々商人の世となったことを考えるとあながち間違ってもないような
投稿: ryou | 2010年3月16日 (火) 14時03分
ryouさん、こんにちは~
まぁ、家光さんも、そこまでアホではないと思いますが、本日は信綱さんが主役なので・・・(^-^;
結局、松平定信の時代になっても、まだ「こっちの物をこっちに渡すだけでお金を稼ぐ商業は卑しい職業」ってのが抜けませんしたもんね~
中にはちゃんとわかってる武士もいたでしょうが・・・
投稿: 茶々 | 2010年3月16日 (火) 15時53分
順当に行けば来年の「江 姫たちの戦国」の終盤で、若き日の松平伊豆守が登場するはずです。家光・忠長ともに誰が演じるか楽しみです。家光時代の幕閣が、江戸幕府最高の政権体制だったと言われます。
この人はちょうど先輩老中の土井利勝と似たようなタイプの政治家ですね。一族の養子になる、小姓として仕えた自身の主君より年上、手本となる上役がいたなどの経歴を見ても似ています。
投稿: えびすこ | 2010年3月16日 (火) 17時29分
>どこかに、いませんかねぇ~平成の知恵伊豆・・・
ホントに「悪知恵」じゃなく立派な裏方さん、いませんかね。でも立派な人がいろいろ活躍すると足を引っ張るのが世の常みたいですが。 来年の大河ドラマで登場するか?誰が演じるか?楽しみです。(龍馬伝はもうちょっと・・・)
投稿: Hiromin | 2010年3月16日 (火) 20時16分
北朝鮮や中国や韓国の為になる知恵なら…小沢やポッポなんかが居るけど、日本の国家・国民の為になる知恵を出してくれる、立派な政治家は今の政界に見当たりませんね。
投稿: マー君 | 2010年3月17日 (水) 01時18分
えびすこさん、こんばんは~
登場しますかね?知恵伊豆さん・・・
楽しみです。
投稿: 茶々 | 2010年3月17日 (水) 01時28分
Hirominさん、こんばんは~
足の引っ張り合いじゃなく、皆で盛り上げて、この不景気を何とかしていただきたいですね~
投稿: 茶々 | 2010年3月17日 (水) 01時30分
マー君さん、こんばんは~
目先の選挙のための目先のばらまき・・・
長期のビジョンはあるんでしょうか???
この先の老後が心配です。
投稿: 茶々 | 2010年3月17日 (水) 01時32分
目先の選挙のためのバラマキにしても、下手くそ過ぎます。朝鮮人にバラマイテ日本人には行き渡らない。朝鮮人や中国人の為に悪知恵を使う政治屋どもは、政界から去るべきですね!!。
投稿: マー君 | 2010年3月17日 (水) 09時49分
マー君さん、手厳しいですね~
ウチは、子供手当てにも、高校無料化の恩恵にもあずかれないので、少々ひがんでます(≧ヘ≦)
投稿: 茶々 | 2010年3月17日 (水) 14時50分
来年に登場すると思います。たぶん20代の俳優になるでしょうね。最終盤で「伊豆守」になる人なので。「出るべき人が出る」配役なので、期待しています。
あと春日局(劇中では恐らく終始「お福」)もまだ配役が決まっていませんが、お江さん・家光とは縁があるので、間違いなく出ます。誰になるか?若手女優からの人選でしょう。
投稿: えびすこ | 2010年7月 9日 (金) 10時14分
えびすこさん、こんにちは~
春日局は、なんとなく今までは大物女優のイメージがありますが、今回はお江さんが若いので、やはり、若い方が起用されるかも知れませんね…期待します。
投稿: 茶々 | 2010年7月 9日 (金) 17時22分