七夕に寄せて~星の昔話「毘沙門の本地」
7月7日は七夕・・・
今年もまたまたで恐縮ですが・・・
やはり、今日は星にまつわる昔話をご紹介しましょう。
・‥…━━━☆
むかしむかし、
天竺(てんじく)の瞿婁(くる)国に住む千載(せんざい)王は、冨も名誉もその手にし、もはや何も望む事はないように思われましたが、唯一、子供がいない事が悩みの種でした。
ある時、梵王にお参りをして、熱心に祈願すると、なんと姫君を授かります。
王は、その子を大天玉姫と名付けて可愛がり、やがて姫は美しい乙女に成長します。
そんな姫を「嫁に貰いたい」と言って来たのは、摩耶(まや)国の大王・・・結婚話はトントン拍子に決まり、姫は、摩耶国へと向かうのですが、その途中に通過した維曼(ゆいまん)国で、たまたま出合った金色太子という若者と、いまさらながらのビビビ婚(←古い!)
ひと目会ったその日から、恋の花咲く事もある仲睦まじいカップルでありましたが・・・そう、本当なら、彼女は摩耶国へ行くはずだったわけで・・・
・・・で、話をつけるため、いや、はっきり言って相手を討ち負かすため、「3年経ったら帰って来るさかいに、待っとれや」
と言い残して太子は摩耶国へと向かうのですが、約束の時を過ぎても太子は帰らず、悲しみにうちひしがれた姫は、残念な事に、留守中に亡くなってしまったのでした。
姫の死を知って、悲しみに暮れる太子でしたが、ある夜、夢のお告げによって、姫が天上界(大梵宮)に転生して、大梵王(だいぼんおう)の黄金の筒井のほとりで暮らしている事を知ります。
「これは、早速、会いに行かねば!」
と、金麗駒(きんれいく)という名馬にまたがり、天上界へと旅立ちました。
・・・とは言え、初めての天上界・・・いったい、どこに何があるやら、さっぱり?です。
そこが、どこともわからず、昼も夜なく、いつしか3年という月日をさ迷い歩き、ある高い山の頂上にたどり着きました。
すると、そこで、1人の僧が、仏像に灯明(とうみょう)をあげて礼拝している場面に出くわします。
早速、黄金の筒井とやらへの道を尋ねる金色太子・・・
「この先、西に向かって9ヶ月ほど進んで行きなはれ・・・ほんだら、犬を3~4匹、腰に結んでる人に出会うやろうから、その人に道を聞きなはれ。
ほんで、ここまで、誰に道を聞いてきたか?と尋ねられたら、長庚星(ゆうづつ・よいの明星)に教えてもろた・・・って答えるんやで」
と教えてくれました。
言われたとおりに進んで行くと、アラ本当に・・・
犬を2~3匹腰につけた僧侶に出会いました。
もちろん、教えられたとおりに道を尋ねます。
すると、
「ここより西に、3年ほど行くと、大きな川がある。
川の広さは300由旬(ゆじゅん)ほどあって、とてもやないけど、すぐに渡れるような川やない!
けど、その近くの木の下に、幼い男の子と女の子の二人を連れたオバハン・・・いや、マダムがおるさかいに、その先のの事は、その人に聞きなはれ。
ここまで、誰に聞いてきたか?と尋ねられたら、彦星が教えてくれた・・・って言うんやで~」
と教えてくれました。
ちなみに、1由旬=60インド里やそうですが、何のこっちゃわかりません。
でも、とりあえず行くと大きな川が・・・天の川やろな~っていうのは想像できます。
やがて、言われたとおりの大河のほとりにたどりつきました。
確かに、デカイ川です。
ところが、オッサンが、「ちょっとやそっとじゃ渡れん!」と言っていたその大河ですが、霞のムチを金麗駒に当てると、アッと言う間に、飛び越しちゃいました。
すると、向こう岸には、二人の子供を連れたかのマダムが・・・
「いやいや・・・私も、くわしい事は知らんねんけど、ここから、さらに3年ほど西に行くと、何人かの僧侶に出会うから、その人らに聞いてみて!
ここまでは織姫星が教えてくれた・・・って言うんやでぇ~~~」
そのとおりに行くと、今度は、立派な僧の雰囲気をかもし出した人物が、7~8人ぞろぞろと現われて、やはり、同じように道を教えてくれます。
「我々は、七曜の星(北斗七星)である」と名乗ります。
・・・って名乗るだけかい!
さらに進んで行くと、今度は須弥(しゅみ)山のような大きな山で火が燃え盛る様子を横目に見ながら、その次は真っ暗な闇・・・そこを進んでいくと、竹林の中に、2千人ものお供を連れ、銀の輿に乗った明星ぼしに出会いますが、まだ、黄金の筒井には到着しません。
結局わからず、またまた尋ね歩き・・・
さらに歩き・・・
やがて苦労に苦労を重ねて、ようやく姫に出会う事ができました。
しかし、太子は現世の人で、姫は冥界の住人・・・このままでは、二人が結ばれる事ができないため、大梵王の粋なはからいで、新婚旅行よろしく福徳山へと飛行する二人・・・
そこで太子は毘沙門天王となり、姫は吉祥天女となり、二人は永遠の愛を誓うのでした。
めでたしめでたし
・‥…━━━☆
このお話は、室町時代から江戸時代にかけて成立したとされる挿絵つき短編物語集『御伽草子(おとぎぞうし)』の中にある「毘沙門(びしゃもん)の本地(ほんじ)」というお話です。
毘沙門だけでなく、八幡の本地や貴船の本地など、「本地物(ほんじもの)」と呼ばれる種類のお話の一つ・・・
本地物とは、主人公はもともと神仏の申し子として人間界に生まれ、様々な苦難を体験しながら自らを磨き、最後には神仏として転生するというストーリー展開をする物で、上記の御伽草子をはじめ、室町時代から江戸時代の説話集に多く登場するパターンの物語・・・
神仏社寺の縁起や由緒を、一般にもわかりやすく解いた物なのでしょう。
それにしても、天上界でウロウロするくだりは、一昨年の今日ご紹介した日本の七夕伝説「天稚彦(あめわかひこ)物語」(2008年7月7日参照>>)と、そっくりですね~。
まぁ、天稚彦物語も御伽草子なので、この頃のハヤリなのかしらん。
ところで、この金色太子が出会う星たちですが、天の川を挟んで向かい合う彦星と織女星の間が3年かかる・・・
夜空を見上げた昔の人は、そこに輝く星と星の距離が、実際には何年もかかるほど遠い物だという事を知っていたのでしょうか?
ひょっとして、すでにガリレオの「それでも地球は回っている」の名ゼリフが伝わっていたのかしら?
なにやら、歴史のロマンと宇宙のロマンが重なった不思議な気持ちになるお話でした。
上記の天稚彦物語以外にも、七夕にまつわるお話を、以前にご紹介していますので、七夕の今宵、お楽しみくださいませ~
●七夕の夜に日本最古のK-1ファイト!>>
●南西諸島の七夕伝説・天降子と天人女房>>
●大阪・池田の民話「星月夜の織姫」>>
●七夕伝説発祥の地・交野ヶ原>>
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コメント
こんにちわ~、茶々様!
>ビビビ婚(←古い!)
>・・・って名乗るだけかい!
>何年もかかるほど遠い物だという事を知っていたのでしょうか?
相変わらずの楽しい文章に 最後の美しい締め・・・最高です(*^ー゚)bグッジョブ!!
投稿: DAI | 2010年7月 7日 (水) 12時37分
DAIさん、こんにちは~
いつもありがとうございます。
単純に、喜ばせていただきます(゚▽゚*)
投稿: 茶々 | 2010年7月 7日 (水) 14時40分