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2011年2月 7日 (月)

ブラック兼続~閻魔大王に夜露死苦

 

慶長二年(1597年)2月7日、上杉家の執政・直江兼続が、下人の一族を成敗した高札を立てました。

・・・・・・・・・

一昨年の大河ドラマ「天地人」の主人公・直江兼続(なおえかねつぐ)・・・

Naoekanetugu600 ドラマでは、妻夫木くんという爽やかイケメンを起用し、兜に掲げた「愛」の文字にふさわしく、家臣にやさしく領民にやさしく、そして敵にもやさしい愛の人として描かれていました。

もちろん、ドラマの主人公なのですから、どこまでもカッコ良くイイ人に描かれるのは当たり前で、その描き方に異議申し立てはござんせん。

ただ、個人的には、
「ケンカ売ってんか!」
と、言いたくなるほど高飛車な「直江状」(4月14日参照>>)に代表されるような、ふてぶてしく、策略満載で、ブラックなイメージの兼続さんのほうが好きだったりします。

なんせ、世は戦国ですから、本来ならイイ人では生き残っていけないわけで、あの松永久秀が、戦国好きには意外な人気を誇るように、時には、血も涙もないような戦略を、サラッとやってのけるのが戦国武将の魅力であると思っています。

そういう意味で、本日、ご紹介させていただく逸話は、まさにブラック兼続の血も涙もない判決なわけですが、ややこしい事はスパッと切ってしまわないと、後々、どう転ぶかわからない・・・戦国の世に生きる武将としてはアリだと思ってます。

・‥…━━━☆

この頃の直江兼続は、上杉家の当主・景勝(かげかつ)からの信頼を受けて、領内の政治を一手に任されていたわけですが、公事訴訟の裁判なんかに関しても、むしろ同席する者を排除して、ただ一人でこなしていたのです。

訴えた者が百姓や町人ならば、訴えた者と訴えられた者の両者を同時に奉行所へ呼び、その場で意見を言わせながら・・・

武士の場合なら自らの屋敷に呼んで、やはり意見を聞く・・・そして、どんな裁判でも、その場で即座に決断を下したと言います。

そんな中、ある日ある時、上杉家の家臣・三宝寺勝蔵(さんほうじかつぞう)なる者が、ちょっとした事で、召し抱えていた下人を成敗してしまったという事件が勃発・・・

当然の事ながら、たとえ主人と言えど、大した失敗もしていないのに斬られてしまった下人の家族としては、このまま、何もなしでは、気持ちが収まりません。

そこで、下人の家族らは、
「このままでは、殺されたアイツが浮かばれん!どうか生かして返してくれ~
兼続に訴えたのです。

そこで
「んも~しゃぁないなぁ」
とばかりに兼続さん・・・遺族たちに白銀20枚を渡して、話をつけようとします。

『死たる者 何とて呼(よび)返さるべき 銀子(ぎんす)取りて了簡(りょうけん)せよ』
「死んでしもたモン、どないして生き返らせっちゅーねん。こんだけの金額渡すさかいに納得してくれよ」
と・・・

ところが、家族たちは、
「人の命・・・金で解決できるもんやおまへん!」
とばかりに、まったく聞き入れず、どうしても
「生きて返せ!」
と泣いて譲らなかったのです。

そこで思案した兼続・・・

しばらくして1通の手紙を書き、居並ぶ遺族たちに、その手紙を差し出しながら、高らかに宣言!

『此(この)上は是非に及ばず、何(いず)れにも呼(よび)返し取らすべし、只冥途(めいど)へ呼びに遺はす者なし 大儀ながら彼(かの)者の兄と 伯父と 甥と三人閻魔(えんま)の庁へ参り 彼者を申し受け来たるべし』
「しゃぁないなぁ~どないしても生きて返してくれっちゅーんやったら、誰かが冥途へ行って、閻魔さんと直接交渉して来なアカンわなぁ。
ほな、そこの兄ちゃんとオッチャンと甥っ子くん・・・ちょっと大変やけど、俺が閻魔さんへの手紙書いたったさかいに、これ持って閻魔さんのトコ行って、その死んだヤツ連れ戻して来てくれるか?

と言うが早いか、3人を引き連れて、城下の橋のたもとに向かい、アッと言う間に3人の首をはねてしまったのです。

そして、橋のたもとに、手紙の内容と同じ文を書いた高札を高らかに掲げました。

そこには
『未だ御意(ぎょい)を得ず候へども 一筆啓上せしめ候 三宝寺家来何某(なにがし) 不慮の仕合にて相果て候 親類ども歎き候ひて 呼び返し呉れ候へと様々申し候に付 則(すなわ)ち三人迎ひに遣し候 彼死人御返し下さるべく候 恐惶謹言
  慶長二年二月七日 直江山城守兼続判
  閻魔大王  冥官獄卒
(ごくそつ)御披露…』
「とりあえず、簡単に言いますと、三宝寺勝蔵の家来の何とかって人物が、いわゆる過失致死みたいな感じで死んでしまいまして・・・その家族が、どうしても彼を呼び返してくれ!って泣いて頼みますもんで、これから3人の迎えの者をソチラに向かわせますよって、何とか、その死んだ者を返していただけませんやろか?お願いします。
  慶長二年二月七日 直江兼続より
  閻魔大王さんへ
  あの世の番人の方々にもよろしく~」

そうです。
兼続は、閻魔大王への手紙を書いたのです。

そして、「そんなに返してほしいなら、お前らが冥途へ行って、取り返して来い」
と、家族のうちの3人を斬ってみせしめとし、その姿とともに高札を立てた・・・というわけです。

これ以来、すっかり政道への訴えが無くなったとか・・・

まぁ、このお話は『名将言行録』という軍記物に出てきますので、どこまで信憑性にある物かは、疑ってかからねばならないような逸話の類ではありますが、得てしてこういう場合、まったくの事実でなかったとしても、
「あの人ならやりかねない」
「あの人なら、きっとこうするだろう」

といったような、その人物から抱くイメージを代弁している事もありますので、それを踏まえれば、愛の人=兼続さん、なかなかのブラックイメージです。

確かに、これで、兼続の下した判決に対して、ゴチャゴチャと文句を訴える人は、いなくなるわけですから、一刀両断のあっぱれな判決と言えばそうなのかも知れませんが、上杉家が米沢30万石に減封された時に、家臣を一人もリストラする事なく、自分の領地を3分の1にしてでも家臣を守った愛の人のイメージではない事は確かですね。
 .

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戦国・桃山~秀吉の時代」カテゴリの記事

コメント

茶々様
真偽はともかく、すごいエピソードですね。大河ドラマでは触れることはできませんですね。

投稿: いんちき | 2011年2月 7日 (月) 11時38分

いんちきさん、こんにちは~

意外と、ドラマでのこういう描き方もオモシロイ気はしますが、一般ウケはしないのでしょうね。

投稿: 茶々 | 2011年2月 7日 (月) 12時05分

タイトルを見て「何の事か?」と思いましたが、直江兼続の非常な一面の逸話でしたね。この話は聞いた事があります。

このブログでも時々触れていますが、大河ドラマの構成に関しての矛盾点を、「日本史」を職業とする人(日本史専攻の大学教授、郷土史研究家、博物館学芸員など)が、NHKに「大河ドラマの時代考証などを是正してほしい」と言う要請をした話をあまり聞きません。なぜなんでしょう?
毎年少なからず「あれは矛盾する」と言う部分があると思います。許容範囲を超えた事も最近はあるのですが、上記のような専門家の提言はあまり出ないですね。万が一BPOの審議対象になったら是正せざるを得ないのでしょうか?「一般視聴者の意見」は新聞などでたまに出ます。

投稿: えびすこ | 2011年2月 7日 (月) 18時36分

えびすこさん、こんばんは~

江の時代考証は小和田先生でしたよね?
今回の小和田先生ではありませんが、何度か大河ドラマの時代考証をおやりになった先生と、その事についてお話した事がありますが、先生たちは、「あれはドラマ=フィクションである」と、歴史とは完全に別の物と考えておられます。

時代考証というのは、「調度品や小道具、時代背景などのアドバイスをするのであってストーリーに口を出す立場ではない」って事ですね。

中には、はがゆい思いをしておられる専門家の方もおられるのでしょうが、作り手として関わっている方は、おおむね、そのように考えておられるようです。

逆に、某放送局でやっている「新説」的なフレコミで紹介する「トンデモ説」の方に違和感を感じておられました。
アレはドラマではないですから…

投稿: 茶々 | 2011年2月 7日 (月) 19時04分

茶々さまって、もしかしたら、モノスンごい
関係者の方???なのすね。ふふ・・・

投稿: やませみ | 2011年2月 7日 (月) 21時08分

やませみさん、こんばんは~

いえいえ、私は無関係で歴史素人の一視聴者ですよ。
なので、先生たちのように仏になれず、ついついツッコミを入れてしまいます(修業が足らんです)。

でも、まぁ、ドラマは創作物なので、史実に忠実である必要はないし、その史実も様々な見解がある物ですから、ドラマの場合はおもしろければ良いんじゃないかとは思っています。

ただ、身近に(家族なんですが…)、まったく歴史に興味がない大河ドラマ好きがいて、ドラマを丸々信じ込んで、「前の○○の時の信長と、今回は違うけどどっちがホンマなん?」なんて聞くもんですから、たまに、愛のツッコミ記事を書いてしまいますww

投稿: 茶々 | 2011年2月 8日 (火) 01時19分

なるほど。物語構成の方は脚本家や演出担当等に練るんですね。先ごろ亡くなられた和田勉さんは、「竜馬が行く」の演出担当でしたが、同番組の視聴率が低迷したのは当時としては、演出が斬新過ぎた事もあるんでしょうね。
大河ドラマの裏方さんと面識があるのはすごいです。w(゚o゚)w

考えてみるとNHK大河ドラマは最近は、「若手俳優に時代劇の経験を積ませる場」としてのカラーが濃いですね。「天地人」では若手の割合が高かったので。今年もそうなるかも?

投稿: えびすこ | 2011年2月 8日 (火) 08時55分

かなり史実を曲げて書かれる小説もあります。ドラマや映画もそういうものでしょう。娯楽に徹して(?)作られています。

投稿: やぶひび | 2011年2月 8日 (火) 09時49分

えびすこさん、こんにちは~

専門家の方もいろいろな考えをお持ちだと思いますが、私が聞いた限りではそんな感じでした。

ただ、来年の大河(清盛)の時代考証をお引き受けになった高橋先生は「戦う派」のようですので、それはそれで楽しみです。

投稿: 茶々 | 2011年2月 8日 (火) 15時49分

やぶひびさん、こんにちは~

「月9」を見て、その主人公が実在するとは誰も思わないのに、時代物となると、本当の事だと思ってしまうのは、なぜなんでしょうね。

投稿: 茶々 | 2011年2月 8日 (火) 15時54分

>「月9」を見て、~
原作があるかないかで違うでしょうね。

原作(史実)のあるドラマを見て、

原作(史実)もまったく同じだと思う人は多い。
原作(史実)とドラマが違うとツッコむ人も多い。

>高橋先生は「戦う派」のようですので、~
ツッコミ派としては、応援したくなります。(笑)

投稿: ことかね | 2011年2月13日 (日) 11時28分

ことかねさん、こんにちは~

確かに、そうですね。

以前、「余命○ヶ月の花嫁」?だったかな…そのドラマを見てないので、くわしくは知りませんが「ヤラセ」だとかで大騒ぎになってましたね。

「ドラマでヤラセ?」って思いましたが、事実をもとにしているというフレコミだと、史実とまったく同じと思う方が多いようですね。

高橋先生に関しては、また聞きのまた聞きですが、何やら、講演会で「名前が出る以上譲れない」旨の爆弾発言をなさったとか…

ツッコミ派としては楽しみです。(笑)

投稿: 茶々 | 2011年2月13日 (日) 15時26分

私も私の機会損失や家族を奪った人間の家族の命で代償して欲しいですよ。
今の世の中の方が理不尽ですよね。

投稿: | 2014年11月11日 (火) 02時28分

私も私の機会損失や家族を奪った人間の家族の命で代償して欲しいですよ。
今の世の中の方が理不尽ですよね。

投稿: | 2014年11月11日 (火) 02時28分

被害者となられた方側のお気持ち…というのもあるかも知れませんが、現在の日本は法治国家なので、やはり、法のもとでのお裁きを…

投稿: 茶々 | 2014年11月11日 (火) 14時05分

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