真夏の夜の怪談話6…灯明守の娘in山崎
立秋も過ぎ、暦のうえでは秋ですが、まだまだ暑いですね~~
ではでは、今宵も、納涼怪談話と参りましょう!
本日は、大阪は山崎(三島郡島本町)・・・織田信長を本能寺に倒した明智光秀と中国から戻った豊臣(羽柴)秀吉が戦った、あの天王山の麓に伝わる「灯明守(とうみょうもり)の娘」というお話です。
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今も現存する離宮八幡宮(りきゅうはちまんぐう)・・・古くからあるこの神社には、その昔、灯明守という神様にお供えするともし火の番をする係のおじいさんがいました。
毎日、日が暮れると、神社の前に建つ背の高い燈籠に灯りをともし、一晩中、灯りが消えないように油の加減を調整する係なのですが、離宮八幡宮には、もう一つ、淀川の向かい側にある八幡(やわた)にも大きな燈籠があって、そちらには、毎日渡し舟に乗って灯りを灯しに行くという、けっこうハードな仕事です。
しかも、この灯りは、神様のためだけでなく、夜の暗い淀川を船で行く人たちの道しるべにもなっていて、大変役だっていたのですが、おじいさんも、もう若くは無く、北風の吹く寒い夜などは、とても身が持たない状況でもあった事から、時々は、おじいさんの孫娘が、仕事を手伝いながらも、何とか、毎夜欠かさず、灯明を守る日々でした。
離宮八幡宮への行き方&周辺の見どころは、「本家HP:歴史散歩・天王山」で紹介しています>>
ところが、そのおじいさんが、ある時、ポックリと亡くなってしまいます。
一人残された孫娘は、おじいさんの代わりに灯明守の仕事を続ける事になりますが、この孫娘が、実は、絶世の美女・・・「都でも、これほどの美女にはそうそうお目にかかれない」と、皆が噂するほどの美しさだったのです。
おじいさんの仕事を継いだ孫娘は、おじいさんに代わって、10日に1度の割合で、町の油問屋に油を買いに行くのですが、早速、この油問屋の若旦那が彼女のとりこに・・・
「そんな仕事は、ウチの下男にやらせるから嫁にけぇへんか?一生遊んで暮らさしたるで~」
と誘いますが、彼女には、すでに将来を約束した恋人がおり、今は遠くで働いているものの、いずれ一緒になろうと言い交わしていましたから、そんなお誘いは丁重にお断り・・・
なかなかのイケメンで金持ちだった若旦那は、これまでフラれた経験などなく、初めて思い通りにならない女を目の当たりにして、彼女に恨みを抱くようになります。
一方、この離宮八幡宮にいた若い神主も、彼女の事が好きになり、毎夜、灯りをともしに来る彼女を誘いますが、やっぱりダメ・・・
そして、この若い神主も、「この八幡宮のおかげで飯が食えてるくせに、ワガママな女やで」と彼女を憎みはじめます。
さらに、毎日向こう岸まで運んでくれる渡し舟の船頭も・・・舟の上でその思いをコクりますが、やっぱり断わられ、この船頭も、彼女を憎らしく思うようになるのです。
やがて、この3人は、ふとした事から、お互いが彼女に思いを寄せながらもフラれた事を知るようになると、3人で意気投合・・・皆で、彼女をおとしいれる相談をするのです。
そして3人は、毎夜、彼女がつけた大燈籠の灯りを消して回るというイタズラをやりはじめます。
冒頭に書かせていただいたように、この燈籠の灯りは淀川を上下する船頭たちの目印にもなっていましたから、そんな船頭たちから、離宮八幡宮へ「この頃、ず~~っと灯りがともってないぞ!」っとクレームの嵐・・・
まさか、自分の部下がイタズラに関わってる事など知るよしもない八幡宮の老神主は、孫娘を呼び出して、「仕事をサボらないように」と注意します。
何が何やら、身に覚えのない娘は弁明しますが、実際に灯りが消えている事は事実・・・しかたなく、その夜から、何度も見回りをする彼女ですが、つけたばかりの灯りが家に帰る頃にはもう消えている・・・という事のくりかえしで、もう、疲れ果ててしまいます。
そして、いつしか・・・
「燈籠の灯りが消えるのは、灯明守の娘が、わざと消して、余った油をコッソリ売って、ウラで大儲けしとるんや」
なんて噂がたつようになります。
もちろん、この噂の出どころも、あの3人組・・・
やがて話がどんどん大きくなって、とうとう、都から取り調べの役人がやって来て、娘を取り調べる事になるのですが、例の3人は、
「娘が灯りを消してるのを見た」とか、
「油を盗んでいるところを目撃した」とか、
「コッソリ、油を売ってるのを見た」とか、
自らが証言者となって、彼女を追い込むのです。
もちろん、娘は泣きながら無実を訴えますが、お金持ちの問屋の若旦那やら、神主やらの証言に比べて、身分の低い彼女の弁明などは信じてもらえるはずもなく、「神様を愚弄した罪は重い」として、淀川の河原にて斬首される事に・・・
娘の事をよく知る人たちは、当然、彼女がそのような悪い事をする娘ではない事を知っていましたから、「可哀そうに・・・」と涙を流しましたが、もはや、どうしようもなく・・・娘は、河原の露と消えました。
それからの事です。
山崎や八幡では、不思議な事が起こりはじめます。
死んだ娘の代わりには、縁もゆかりもない中年の男が灯明守の仕事を引き継いでいたのですが、彼が、夕暮れ、灯りをともそうと山崎の燈籠に向かうと、不思議な事に、もう灯りがついているのです。
しかも、ふと向こう岸に目をやると、すでに八幡の燈籠にも灯りがついています。
それは、次の日も、そして、また次の日も・・・
そうなったら、恐ろしくなって来るのが人の常・・・中年男は、慌てて離宮八幡宮の老神主に相談・・・未だ、事情を知らない老神主は、「これはキツネかタヌキの仕業に違いない!」とばかりに、灯明守の男と若い神主に見張りを命じます。
その夜・・・草むらに隠れて見張っていた二人でしたが、その日に限って時刻になっても灯りはともらず・・・もはや、「我等に恐れおののいたか!」とばかりに、若い神主が草むらから出て帰ろうとすると、突然、大燈籠に灯りがともります。
「んな、アホな!」
と、若神主が、燈籠に近づいた途端
「ひゃぁ~~助けて~~」と悲鳴・・・
続いて草むらから出て来た灯明守の中年男が、悲鳴をあげた若神主のほうを見ると、なんと、彼の周りを不気味な炎の玉のような物がグルグル回っています。
よく見ると、それは炎の玉ではなく、血みどろの女の生首・・・宙を舞うその生首が、口からゴゴーと炎を吐きだしながら若神主に襲いかかっていたのです。
「わ悪かった・・・謝るから命だけは助けてくれ!」
そう、その生首は、無実の罪で処刑された孫娘の首でした。
娘の生首は、謝りまくる若神主の首筋に噛みついたかと思うと、一気に噛み殺してしまいました。
その様子をみていた中年灯明守も、思わず「助けてくれ!」と叫びましたが、彼女の生首は、新しい灯明守には目もくれず、そのまま、炎を吐きながら、淀川の水面を横切ったかと思うと、向こう岸の八幡の大燈籠の回りをグルグル旋回し、吐きだした炎で、燈籠に灯りをつけた後、どこへともなく飛び去って行ったのです。
それからというのも、毎夜、どこからともなく現われた生首が、両岸の大燈籠に灯りをともしては消え去るようになり、いつしか、誰が、何人が見てようが現われるようになり、目撃者の数も日に日に増えていきました。
やがて、あの船頭が、淀川を航行中に娘の生首に襲われて命を落とします。
最後に残った若旦那・・・「今度は自分の番だ!」と、怖くなり、河内にある親戚の家に身を隠しますが、なんと、娘の生首は、淀川づたいに河内まで飛び、この若旦那も喰い殺してしまいました。
それでも、なお、大燈籠の灯りがひとりでにつく現象はおさまらず、山崎や八幡に住む人々は恐れおののき、夕方になると皆、家の雨戸をピッシリと閉めて、中に閉じこもるようになります。
そうなると、当然の事ながら、あちらからこちらから、真相を知る人々の証言が出始め、やがて、娘が無実の罪であった事、彼女をおとしいれたのが、死んだ3人である事などが明らかになっていきました。
真相を知った老神主は、
「知らなかったとは言え、わしらが悪かった・・・どうぞ、この罪を許してくだされ~」
と、淀川の河岸に十三重の石塔を建立し、河原で盛大なお祭りを催して、娘の霊を慰めたのです。
すると、その夜・・・
どこからともなく現われた娘の生首は、うれしそうに石塔の回りを何度か回ったかと思うと、自ら、淀川の深い底めがけて川面へと飛び込み、そして、もう2度と、現われる事はなかったという事です。
この石塔は、明治の頃までは残っていたと言われますが、河岸工事で撤去されたのか、現在は残っていません。
本当の事を皆に知ってもらえた事で、娘は成仏したのでしょうか???
なんとも、悲しいお話です。
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コメント
どもども
茶々様の言われた通り、コメントしにくい記事もあります。(まさにこの記事が…)
言葉思い浮かびまへん…(…合掌…。)
(ネ…。誰もコメントしてないモン…)
しんなりしみのすけ
投稿: azuking | 2011年8月11日 (木) 00時56分
azukingさん、こんにちは~
なんだか空しさの残る悲しいお話ですよね~
無関係の人を襲わないところに彼女のやさしさが出ていて、より涙を誘います。
投稿: 茶々 | 2011年8月11日 (木) 09時48分