大河ドラマ主役の「江」~謎多き最期
寛永三年(1626年)9月15日、本年の大河ドラマ「江~姫たちの戦国」の主役でお馴染の江が54歳の生涯を閉じました。
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ご存じ、今年の大河の主役=お江(ごう)さん・・・このブログでは、彼女が大河の主役に決まった2009年の6月に、【2011年・大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」への期待】(2009年6月19日参照>>)と題して、その生涯についておおまかにご紹介させていただきましたが・・・
彼女の晩年は・・・
江戸幕府の第2代将軍=徳川秀忠の正室で、第3代将軍=徳川家光の生母、娘=和子を天皇家に嫁がせたので第109代明正天皇の祖母でもあり・・・まさに、血で血を洗う戦国の世の最後の最後に、最も高位を勝ち取った女性です。
しかし、先のページでも書かせていただいたように、華やかな地位についた重要な女性でありながら、その人となりの史料がほとんどない謎の人でもあります。
ちなみに、大河ドラマでの江の場合、「誰々と結婚した」「誰々を産んだ」という以外のエピソードは、ほぼすべて、脚本家さんの創作です。
一説には、かなりのカカァ天下で、年下の夫・秀忠を尻に敷き、次期将軍となるべき家光を嫌って弟の国松(忠長)(12月6日参照>>)を溺愛し、家光の乳母の春日局(かすがのつぼね)とヒテリックなバトルを展開した・・・なんて言われますが、これらは巷の噂話のような確度の低いエピソードで、そこには、お江さん自身の言い分など含まれていません。
そんな彼女の生涯を物語るかのように、その死も、静かに、そして突然に訪れます。
寛永三年(1626年)・・・この年の秋、すでに将軍職を息子に譲って大御所となっていた秀忠、そして息子で将軍の家光、さらに、その弟の忠長をはじめとする徳川一門や、名だたる有力大名たちが、こぞって上洛し、皆、京都に滞在しておりました。
というのは、秀忠と江の娘である和子が女御(にょうご)となった(結婚したという意味です)後水尾(ごみずのお)天皇(4月12日参照>>)が、この9月に、二条城への行幸を予定していたからで、その予定の日づけは9月6日から10日・・・
その準備やら、お迎えやらで、皆の注意が京都に集中する中、無事、5日間の滞在を終え、「ああ、一大行事が終わった~」と、ホッとした直後の11日・・・江戸から、江の危篤を知らせる早馬が、秀忠たちのもとに届くのです。
知らせを聞いて、次男の忠長は、その日のうちに江戸へと向かい、家光も、側近の稲葉正勝(春日局の息子)を江戸へ向かわせ、自らも、9月19日に京都を発とうと急ぎ準備をします。
しかし、寛永三年(1626年)9月15日・・・未だ、誰の到着も待たないまま、お江は、あの世へと旅立ってしまったのです。
すぐに江戸へ向かった次男の忠長でさえ、彼女のもとへ到着したのは、亡くなった2時間後だったと言われています。
出立を明日に控えた18日の夜に、母の訃報を聞いた家光は、諦めて出立を延期し、仕事を片づけてから江戸へ戻る事に・・・つまり、それだけ、急な死だったという事です。
江戸城西の丸で亡くなったお江の遺骸は、18日に増上寺へ送られ、麻布我善坊(あざぶがれんぼう)に設けられた荼毘所にて荼毘(だび)に付される事になり、10月18日に葬儀が行われました。
その頃には、すでに、秀忠も家光も江戸に戻っており、その葬儀は、前将軍の御台所で現将軍の母という、彼女の肩書にふさわしい盛大な物だったようです。
増上寺から麻布の荼毘所までの約1.8kmもの道すべてに筵(むしろ)を敷いて、その上に白い布を置き、その道筋の両側には1間(約1.8m)ごとに警備の武士が配置され、そこを葬儀の行列が進みます。
増上寺から荼毘所へと到着したところで香が焚かれ、その香りが周囲を満たす中、僧侶の読経が始まり、やがて、お江の遺骸を包み込むように積み重ねられた香木に、一斉に火が放たれ、その香りと煙は、約1km先まで漂ったのだとか・・・
・・・んん??火が放たれ???
そう、実は、江は火葬だったのです。
当時としては異例の火葬・・・現に、徳川家の歴代将軍と他の御台所のすべてが土葬なのに、彼女ただ一人が火葬・・・しかも、先ほど書かせていただいたように、身内の留守中の急死で、彼らが江戸を発つときには元気に見送った人なのに、その死因についての記録も無し・・・
さらに、母の急変を知った家光が、京都から派遣した幕府の主治医が箱根で急死するというオマケつき・・・
この事が憶測を呼んで、対立していた春日局の毒殺説も囁かれますが、それはあくまで、後世に話をおもしろくしようとした時代劇の世界でのお話で、実際には何の根拠もありません。
また、疫病が原因だったので火葬にしたのでは?とも言われますが、当時、疫病が流行っていたという記録もありません。
ただ、火葬も、確かに異例ではありますが、あの織田信長が最愛の側室である吉乃(きつの・生駒の方)(9月13日参照>>)を火葬にしていますし、武田信玄の正室の三条の方(7月28日参照>>)も火葬なので、まったく無いというわけでもなく、当時としては、土葬よりはるかにお金がかかり、かつ派手な演出のできる火葬が、むしろ、死した人への愛情と、送る者の権力の大きさの現われであった可能性も高く、「例外なので怪しい」とは決めつけられないのも確かです。
しかし・・・
それでも、まだ、謎があるのです。
実は、石造りだった事で東京空襲で無事だった増上寺のお江の宝塔墓が、昭和三十三年(1958年)に発掘調査されたのですが、その時、宝塔と台座を取り除いても、その下にあるはずの石室が無かった事から、不思議に思った調査隊が、さらに土を掘り進んだところ、なんと、その下には、バラバラになった宝篋印塔(ほうきょういんとう・五輪塔とともに石造りの代表的な墓塔)が埋められていて、その塔身部分のくりぬきから、木炭や鉄釘とともに、お江の遺骨が見つかったのだとか・・・
確かに、家光の晩年に当たる慶安年間(1648年~1651年)に、「お江のお墓を新しくした」という話があるので、おそらくは、この宝篋印塔は以前の墓石で、新しく作り変えたためにいらなくなったという事なのでしょうが、その古い方に遺骨を入れたまま埋めちゃうかい???って話ですよ。
もっかい言いますが、2代将軍の正室で、3代将軍の生母で、109代天皇の祖母ですよ!!!そんなスゴイ人の遺骨を・・・
大河ドラマでは、
良く言えば天真爛漫・・・
悪く言えば空気の読めないワガママ姫のキャラでブッ飛ばし中のお江ちゃんですが、ひょっとしたら、ものスンゴイ謎を秘めた最期だったのかも・・・ですね。
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コメント
茶々さんこんにちは!
ちょっとお聞きしたいのですが、江の遺骨は、新しいお墓のなかにあった古いお墓のガレキと一緒にバラバラになってあった、という事ですか??
なぜでしょうね!!
なぜ、死因がわからないのでしょうね?
武田信玄や上杉謙信は、江より昔の人なのに死因がわかってますよね??
気になる事がたくさんありますね!!
どうしても、時代劇や大河の影響で春日局の隠謀説イメージが強いです('~`;)
今回の大河では、最後には春日局と和解し、老衰になるとみています…。
投稿: たま | 2011年9月15日 (木) 15時52分
今日ですか。江さんの命日は。w(゚o゚)w
関ヶ原の戦いからちょうど26年後ですね。
すると最期を看取った人は誰なんだろう?気になりますね。
テレビではこのシーンに触れるかな?夫も息子もいない中で死んでしまうのはさびしい臨終ですね。享年で見れば老いて死んだ印象はないのですが、当時の平均寿命は超えていたんでしょうね。亡くなった時点で孫が何人かいましたね。
今日は元「敬老の日」です。固定祝日ではなくなった今は、「老人の日」と呼ぶそうです。うちのカレンダーには記載してありますが、この呼び方はあまり世間に浸透していませんね。
投稿: えびすこ | 2011年9月15日 (木) 16時21分
お久しぶりでございます。
お茶々さんも紹介しておられましたが、徳川家光は徳川家康と春日の局の子供だという説まであるそうですね。
この真偽のほどはともかく家光さんはお江さんの実の子供ではないという研究者の方の説があるのを知り、お江さんが忠長さんばかりかわいがった(のが事実とすると)ことをすごく納得した次第です。(笑)
何でもお江さんが江戸以外の場所で(伏見でしたか…?)家光さんの姉の初姫を産んでから江戸に戻り、家光さんを懐妊したとすると、家光さんの誕生日から逆算して日数的に無理があるんだとか…?
事実だとすると、お江さんとしてはやっぱり実の子に将軍職を継いで欲しいでしょうから…。
春日の局も家光さんもそのことを知っていて最終的に家光さんは自分の地位を脅かしかねない弟を死に追いやったのではないかと考えました。
お茶々さんはどのようにお思いですか?
投稿: おみや | 2011年9月15日 (木) 16時43分
たまさん、こんにちは~
ホント不思議ですよね~
戦国のドサクサで亡くなったわけではないのに、何か腑に落ちないですよね~
今回の大河は平和主義なので、春日局とのバトルも、平和解決するんでしょうね。
投稿: 茶々 | 2011年9月15日 (木) 17時27分
えびすこさん、こんにちは~
もはや、あまりにも放送時間がないので、「最後はどうなるんだろう?」と気になって、本屋さんで、原作本の最後のとこだけ立ち読みしましたが、大坂の陣が終わった後は、あらすじのさらにあらすじと言えるような書き方だったので、ひょっとしたら、ドラマではやらないかも知れませんね。
大坂の陣が終わってから、やっと江の出番のような気がしてたので、少し残念です。
投稿: 茶々 | 2011年9月15日 (木) 17時31分
おみやさん、お久しぶりです。
そのページにも書いたかも知れませんが、私としては、家光の父が家康で母が春日局ってのは、すご~くオモシロイと思います。
研究者の間では否定的な意見が多いですが、戦国最後のストーリーという感じでワクワクしますよね~
これに、天海が明智光秀だったら、さらにワクワク…
「織田の血脈に天下を取らせてなるものか!」ってね
私としては「そうであってほしい」って感じですね~
投稿: 茶々 | 2011年9月15日 (木) 17時39分
なるほど!『織田の血脈に天下を取らせてなるものか!?』ということで…?
…ということは、お茶々さんも家光さんはお江さんの実の子ではないと想像していらっしゃるわけですか?
お江さんの最後に関して、春日の局が関与しているという話は、私としては『その時は家光さんの将軍職は決まっていたわけだからお江さんを葬り去る必要なんてなかっただろう。』と思ったんですが『秀忠さん、家光さん、忠長さん、3人とも留守の今こそ、積年の恨みをはらすチャンス!やっちゃえ!』(←表現が稚拙ですみません。)とばかりお江さんを亡きものにしたのかも…?
お江さんに関する記録が(まるで誰かが意図的にかくしたように)極端に少ないということですが、この時に処分されてしまったのかもしれないと思いました。
お江さんは小さい時に両親を亡くして苦労に苦労を重ねた後、晩年は落ち着いた幸せな暮らしをしたのかと思っていたのですが、本当は最後まで心の休まる時がなかったのかもしれません。
そうだとしたら『あんまり幸せじゃなかったのかな?、浅井3姉妹とも絵にかいたような幸せな人生とは程遠かったのかもしれない。』と思いました。
戦国武将の家に生まれたお姫様の宿命なのかしらと思うと気の毒になりました。
投稿: おみや | 2011年9月15日 (木) 20時13分
おみやさん、こんばんは~
そうですね。
ついつい「そうだったらオモシロイ」とかって言っちゃいましたが、確かに、本当にそうだったとしたら、おっしゃる通り、お江さんは心休まる時がなかったかも知れませんね~
しかも、記録を抹消され、意図的に死因すらウヤムヤされているとしたら、とてもお気の毒です。
浅井三姉妹の中では、一番幸せをつかんだ人というこれまでのイメージと、今回の大河でのKYで自由奔放な高飛車キャラに、つい、イケズな気持ちになってしまいましたが、本当は、助け舟を出してさしあげなければならないような、孤独な人だったのかも知れません…反省(p_q*)
投稿: 茶々 | 2011年9月15日 (木) 22時55分
お茶々さん、
コメントに丁寧にお返事を頂き、恐縮してしまいました。何度もすみません。そしてありがとうございます。
ただ、私は別にお茶々さんに反省してもらいたくてコメントしているわけではありませんので悪しからず…。
どちらかというと私は話として面白いというより本当のことが知りたい(たとえストーリー的に面白さは半減しても…)という気持ちでこちらにお邪魔しております。
歴史オンチの私には本当にいろいろ勉強になります。改めてお礼申し上げます。
投稿: おみや | 2011年9月15日 (木) 23時44分
おみやさん、こちらこそ、ありがとうございます。
私見としては、「あってほしいけど無いだろうな」といったところです。
自分の中でも、どちらかに決定は、まだ、できませんね。
投稿: 茶々 | 2011年9月16日 (金) 02時07分
反響がすごいですね。
間もなく収録も終わりますが、この1年間は出演者にとっても、世情を加味しても激動の1年でしたね。
昨日の朝日新聞の夕刊で三谷幸喜さんが、「今小説を執筆中です」とコラム冒頭で書かれてました。文中で戦国時代の人物を主人公にした物語の執筆中で、なかなか筆が進まないと言っております。
50歳を機に小説を書いたとの事で、主人公が実在の人物かそうではないのかはまだ不明ですが、近いうちに書籍となり、あわよくば大河ドラマになれば(それを見通して書いている?)万々歳です。(o^-^o)
実現できるかな?
投稿: えびすこ | 2011年9月16日 (金) 08時59分
えびすこさん、こんにちは~
三谷幸喜さんも、あの「新選組!!」では賛否両論でしたが、少なくとも歴史好きのようなので、個人的には好感を持っております。
最後には放送時間が無くなって、ほぼあらすじのようになる大河の恒例パターンを払拭しようと、最初から考えて、すべての回を一話完結で終えた手腕は良かったと思ってます。
投稿: 茶々 | 2011年9月16日 (金) 12時11分