吉祥天女と結婚?~古本説話集より~
本日は、『古本説話集』より、ちょっと色っぽい昔話をご紹介しましょう。
『古本説話集(こほんせつわしゅう)』とは、平安時代末期から鎌倉時代初期あたりに成立したとおぼしき説話集なのですが、長く埋もれた物が昭和十八年(1943年)に発見された時には、すでに表紙が欠落していて、その名前がわからなかった事から、暫定的な呼び名として『古本説話集』という名で呼ばれている物なのです。
同時期の『今昔物語』や『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』との共通の話もあり、紀貫之(きのつらゆき)や和泉式部(いずみしきぶ)などの有名人も登場するおもしろい説話がギッシリ詰まっていて、現在は重要文化財に指定されています。
その中から、今回は吉祥天女と結婚する法師のお話=「和泉の国国分寺の住持、吉祥天女にえもいはずたはぶれる事」を・・・
・‥…━━━☆
和泉国(大阪府)の国分寺にいた、ある法師・・・鐘をつく事が仕事の彼は、毎日通う、この鐘つき堂にあった吉祥天女(きっしょうてんにょ)像の美しさに魅せられ、恋をしてしまいます。
やがて、鐘をつく合い間に、像に抱きついてみたり、キスのまねごとをしてみたり・・・思いは、どんどんエスカレートしていきます。
すると、ある夜、法師は夢を見ます。
夢の中で、抱きついた吉祥天女が突然動きだし、彼に話しかけます。
「ここ何カ月のお前の思いに、ウチは感激しました・・・
○月○日、播磨の印南野(いなみの・兵庫県加古川市)に来ておくれやす。
そこで、会いましょ❤」
と・・・
夢とは言え、もうドキドキです。
「もしかしたら、本当にその日に・・・」
と思うと、うれしくてうれしくて・・・
ようやく、訪れた約束の日・・・法師は、約束の場所に向かって、半信半疑で歩いていきました。
すると、向こうの方から、この世のものとは思われない美貌の女房が、何枚も重ね着した美しい衣々をまとって歩いて来るではありませんか!
「天女って、こんな人なんかなぁ~~(*゚ー゚*)」
と、思っていると、なんと向こうから声かけ・・・
「あら・・・ちゃんと、約束通りに来はったんやね。」
その女性は、本当に吉祥天女だったのです。
「ほな、早速、ウチらの住む家を用意してぇな」
「えぇ!!!!!(゚ロ゚屮)屮」
いきなり、ここで家を・・・って言われても、法師にはどうして良いかわかりません。
「大した事やないですやん・・・さぁ、さっさと始めて!」
「いや・・・無理っすよ。急にそんな事言われても、僕にそんな力ありませんがな」
そんなやり取りを続けていると、そこに一人の男が通りがかり、
「ありゃま、こんな美人で、こんな高貴なお姿の女性が、こんな野っ原で・・・」
と、彼女の風貌に似合わぬ場所でのやり取りを不思議がって声をかけてきました。
「このへんに住もうと思ってるんやけど、肝心の家が無いのよ。
頼る人もおれへんし、何とかならんかしら?」
と、これまた、かる~~い雰囲気で、彼女が男に話ます。
「なんや、そんな事なら、まかしときなはれ!」
どうやら、その男は、このあたり一帯に勢力を持っているなかなかの顔役だったようで、彼が一声かけると、何人もの郎党が天から降って来るように集まり、あっと言うまに材料もかき集め、またたく間に、立派な家が完成しました。
やがて、彼女と二人、見事にしつらえられた部屋に入る法師・・・
「ウチは、もう、おまはんの妻になったんやさかい、ウチの事を愛してくれるんなら、他の女と浮気せんとってな・・・おまはんの妻は、ウチ一人やで!」
と・・・
「ははぁ・・・仰せの通りに・・・」
憧れの吉祥天女が言うのですから、もはや、法師は天にも登る気持ちで、彼女の言うがまま・・・
こうして、そこで暮らし始めた法師と天女・・・
「まずは・・・」
と、法師が田んぼを耕せば、わずか1段の田んぼに、その10倍の実りが返ってくる・・・さすがは、天女様であらせられます。
そのうち、法師は、そのあたり一帯では、誰にも負けないくらいの財力を手に入れる事になり、やがては、国守までが、彼に一目置くほどの人物になっていきます。
こうして、何年か経ったある時、法師は、その財力に物を言わせた副業として、多くの者にお金を貸す、金貸し業も営んでいた事で、赤穂にあった、とある村へ、借金の取り立てに行く事に・・・
当然の事ながら、向かった先には、彼のご機嫌をとろうという輩がいるわけで・・・
「この村の○○という者の娘が、それはそれはべっぴんで・・・良かったら、その娘を呼んで、足でも揉んでさしあげますが・・・」
と、法師が数日滞在する事になった村の有力者が誘惑します。
「若い娘が足を揉みに来る」・・・それは、イコール「夜の相手もさせまっせ」って事ですから、「浮気はイヤよ!」と天女から釘をさされている法師は迷いますが、
それはそこ、そう言われちゃぁ、その美人の顔くらい見たくなるのも男の常・・・
「顔見て、足を揉んでもらうだけにしといたら、浮気にはならんやろ。
そこで、ガマンしたらえぇねん」
と自分に言い聞かせて、
「おおきに~o(_ _)oペコッ」
と返事・・・
すると案の定、「こんな村に、こんな娘が!!」と思うくらいの美女がやって来て、彼の足を揉みはじめます。
もちろん、最初は、その娘をそばに置いて、足やら肩やら揉ませているだけで、すぐにどーのという事は無かったわけですが、1日、2日・・・と滞在しているうちに、とうとう、手をつけてしまいました。
とは言え、法師としては、その娘を好きになったわけではないので、「ひょっとして、心を寄せてなかったら浮気やないんちゃうん?」なんて甘い読みもありつつ・・・
やがて、数日の滞在のうちに、取り立てもスムーズに終え、自宅へと戻る法師・・・
しかし、普通の奥さんならまだしも、相手は吉祥天女・・・そう、もう、法師が帰った時には、かの事がバレていて、彼女の機嫌が悪いのなんのって・・・
「あんだけ約束したのに、なんで破ったん?
もう、一緒におられへんわ! ウチ、帰る!」
法師はおろおろして、なんやかんやと言い訳をしますが、もはや彼女は聞く耳持たず・・・
「はい!これ!一緒に暮らしてからの物や!」
と、何やら、白い液体の入った大きな桶を二つ法師に渡して、さっさと、どこかへ姿を消してしまったのです。
もう、法師は、泣いて反省し、後悔しまくりますが、どうにもなりませんでした。
天女が残して行った桶に入っていたのは、なんと、結婚してからこれまでの間、彼女との愛の営み中で、彼が放出したアレを溜めておいた物だったのだとか・・・
その後の法師は、さすがに、もとの寺へ戻るわけにはいかず、どこにも属さない僧として生きたとの事・・・
・‥…━━━☆
って、気になる終わり方しないでヨ(。>0<。)
その後、鐘つき堂の天女像は、どうなったの?(まさかアッカンベーしてたり)
まぁ、これは、日頃の願望に応えて現われてくれた天女との約束を破る事で、すべてが無駄になって、まさに元の木阿弥・・・願望と欲望の空しさを伝え、本来の仏の道の生き方へと誘う事が目的の仏教説話ですから、そんな蛇足の結果より、ここで終わるのも、致し方ないのかも知れません。
むしろ、平安の時代に、このように生き生きとした説話があった事に、なんとなく親しみを感じます。
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コメント
近くに吉祥天女はおられませんが、隣が吉祥寺(町)です。
吉祥寺というお寺がある訳ではなくて、吉祥寺門前の人達が開発したから付いた地名とか。ご縁のあるような、無いような場所に住んでおります。
投稿: レッドバロン | 2011年11月18日 (金) 23時00分
古典には意外と艶話がありますね。
中には同性愛的な表現があるのも。
>レッドバロンさん
そうなんですか。吉祥寺は寺名からではないんですね。東京にも「吉祥寺」があります。
投稿: えびすこ | 2011年11月18日 (金) 23時11分
>えびすこ様
その東京・吉祥寺の隣に住んで居ます。吉祥寺(地名)には同名のお寺はありません。無くなった訳ではなく、最初から。
東京七不思議とまではいきませんが、意外にご存知ない方が多いかも。
投稿: レッドバロン | 2011年11月19日 (土) 00時11分
>レッドバロンさん、
>えびすこさん、
こんばんは~
ひょっとして、ご近所同志??
西日本にいると、東京の位置関係がほとんどわかりませんが、吉祥寺という地名は、テレビなどでよく聞きますね。
おしゃれな町のイメージがあります。
レッドバロンさんのおっしゃる「その土地を開発した吉祥寺門前の人たち」というのは、明暦の大火で焼けたために、神田から現在の文京区の駒込に遷った吉祥寺の門前の人たちらしいです。
昔は、文京区のそこも吉祥寺町という町名だったらしいですよ。
投稿: 茶々 | 2011年11月19日 (土) 00時48分
>ご近所同士?
東京と千葉で言えばご近所にはなるのかな?
昔話にも若者が天女と結婚する話がありますね。「天女の羽衣」と言う題の話でしたね。
吉祥寺の地名が移転したんですか。知りませんでした。
投稿: えびすこ | 2011年11月19日 (土) 08時16分
えびすこさん、こんにちは~
>東京と千葉で言えばご近所
アハ…
すいません、関東には土地勘がなくて…
言葉のやりとりから、近いのかな?って思ってしまいました。
>吉祥寺の地名が移転
ではなく、大火で吉祥寺というお寺が焼けて移転する事になった時に、元の場所が、幕府の新たな都市計画で大名屋敷地域に指定されてしまった事から、それまで吉祥寺の門前町に住んでた人たちの行き場が無くなってしまったために、彼らが、新たな土地を開発する事になって、そこが、現在の吉祥寺という事です。
吉祥寺というお寺自体は、現在の文京区の本駒込3丁目という所に移転して、今も、その場所にあるはずだと思いますよ。
(行った事ないんですが(*´v゚*)ゞ)
投稿: 茶々 | 2011年11月19日 (土) 13時42分
私が学生時代、吉田秋生という漫画家の「吉祥天女」にハマっている人が結構いました。こちらは、色っぽくもあり、怖くもありますが、最後は主人公が虚しくなるオチ。天女の生まれ変わりと噂される美少女。美しいゆえに、幼い頃から男につきまとわれる。年を重ねるうちに、自分に近づく男は、財産目当てだと気付き、危険人物を誘惑しては事故に見せかけて殺してしまう。最後は、自分が本当に好きになってしまった男まで死なせてしまい、虚しさに涙する。女にとって、信じるのは金か?愛か?といった所でしょうか。
投稿: 吉田秋刀魚 | 2013年10月16日 (水) 14時59分
吉田秋刀魚さん、こんばんは~
その漫画は知りませんでしたが、「美人で金持ち=幸せ」では無いのですね~
世の中、難しいです。
投稿: 茶々 | 2013年10月16日 (水) 19時35分