鬼の目にも涙??茨木童子のお話
今日は、地元、大阪に伝わる茨木童子のお話をさせていただきましょう。
茨木童子(いばらぎどうじ)は、平安時代に大江山を拠点にして京の都を荒らしまわった鬼の一人で、あの酒呑童子(しゅてんどうじ)(12月8日参照>>)の1の家来とも言われます。
それこそ、昔話の域を出ない話ですので、伝説がさらに伝説になって様々な事が語られ、その出身地も、有力な越後(新潟県)説をはじめ、信州(長野県)や、伊吹山や、そして、その名のごとく摂津(大阪府)の茨木も・・・
そして、それは、『平家物語』やら『太平記』やら『御伽草子(おとぎぞうし)』やらにも登場し、果ては、歌舞伎になったり謡曲になったりもしていますので、ご存じの方も多かろうと思いますが、それらのストーリーは、大抵、酒呑童子と同様に、都にて様々な狼藉を働いた後、源頼光(みなもとのらいこう)と四天王のような英雄によって退治される・・・という、完全なる悪役ポジションなわけですが、
酒呑童子の時にもお話させていただいたように、これらは、当時主力となっていた仏教勢力に反発する古来の信仰を貫く人たちであったり、現在の朝廷にさからう人たちを、「鬼」として、彼らを滅ぼす過程を、昔話風に語り継いだ物だと思われます。
しかし、今回、ご紹介するのは、それとはちょっと違ったお話・・・
もちろん、地元・茨木に口伝えで伝えられているお話ですので、人から人に伝わるうちに様々にアレンジされ、もはや、原型をとどめていない可能性もあり、「私が聞いたのと、違うゾ!」という地元の方もおられるかも知れませんが、あくまで、今に伝わるお話の中の一つとして、心に留めておいていただければありがたいです。
そう、実は、これが、なんとも悲しく、切ないお話なのです。
・‥…━━━☆
昔、茨木という村に、一人の男の子が生まれます。
ところが、その男の子は、その体が普通の赤ちゃんの何倍もの大きさがあり、生まれた途端にはい出し、周りで見ていた大人が、びっくり仰天するその様子を見て笑った口元には、すでに白い歯が生えていたのだとか・・・
それを見た母親は、あまりのショックに、その場で気を失い、そのまま亡くなってしまいます。
さらに、その後、わずか生後3日で歩きはじめたかと思うと、もう外へと遊びに行きますが、それを見た近所の子供たちは
「鬼が来たゾ~」
と逃げ回る・・・
すると、その様子がおもしろいのか、
「ワイは鬼やぞ~~、ほれ、鬼が来た…はよ逃げんかいな」
と、わざと、皆を脅かしながら追っかけまわします。
父親は、
「アホな事言うな、ホンマに鬼やったら、えらいこっちゃ」
と、思いながらも、この先、この子はどないなるのやろ?と胸はドキドキ・・・
そんなこんなのある日、皆を追っかけ回すのに疲れた男の子は、水を求めて近くの小川へ・・・水を飲もうとして小川に顔を近づけ、川面に映った自分の姿を見て
「アレレ??」
「頭に、何か、生えて来てる??」
と、首をかしげている所に、通りがかった父親・・・
「わぁ! お前、どないなっとんねん、自分で、鬼や、鬼やで言うさかい、ホンマにツノが生えて来たやないかい!」
ーこら、アカン・・・もう、里には住まれへんー
と思った父親は、
「ぼん、栗拾いに行こか」
と男の子を誘い、山の奥の奥にある栗林へと連れて行って、男の子が栗拾いに夢中になっているすきに姿を消し、そのまま、男の子を置き去りにして、帰ってしまったのです。
しばらくして、父親がいない事に気づく男の子ですが、それこそ、体は大きくても、未だ生まれて間もない赤子・・・父親を探しながら、あたりを歩いてみますが、歩けば歩くほど山奥に入り込んでしまいます。
やがて、お腹がすいた男の子は、そばに来たウサギを仕留め、目に留まったキジを仕留め・・・それこそ、生きて行くには、自分で何とかしなくてはならないわけで・・・いつしか、イノシシまでをも1発で仕留めるような腕前になる男の子・・・
それもこれも、
「生きてさえいれば、またお父ちゃんに会えるかも知れん」
という、彼の純粋な気持ちでした。
しかし、ある時、またまた小川の水を飲みに行って、川面に映る自分の姿を見た男の子・・・成長した彼は、自分自身の姿を、はっきりと確認します。
その目、その口、しっかりと生えたツノ・・・
「まるで、ホンマモンの鬼やないかい、、、こんな姿では、もうお父ちゃんにも会われへん。
それこそ、お母ちゃんみたいに、俺の姿を見た途端に死んでしまうかも知れん」
その大きな眼に、うっすらを涙を浮かべた男の子・・・黙って、さらに山奥へと足を進めます。
そう、「もう2度と里へ降りたいなどとは思わない…父の事は忘れてしまおう」と決意したのです。
それから30年余り・・・
男の子は、もはや、ひとっ飛びで京の都とも行き来できるほどになり、怖い物知らずの立派な「鬼」になりました。
ところが、そんなある日、ツノの付け根のところが、何やら痛い・・・こんな事は初めて・・・
何となく胸騒ぎを覚えた彼・・・おそらく、父は、かなりの老人になっているはず・・・
「ひょっとしたら、お父ちゃんに何かあったのかも知れん」
そう、思ったら、気になって・・・こうなったら、怖がるも怖がらないもありません。
今、会っておかないと、もう一生会えないような気がして・・・たまらず、彼は生まれ故郷の里へと向かいます。
すると、案の定、父は病の床にふせり、もう、体を動かす事もできない様子・・・
彼は、できるだけ脅かさないように、ゆっくりと、ソ~と、我が家の戸を叩きます。
すると、父は
「どなたでっか??ワシはもう、動けませんのや、なんやったら入っておくなはれ」
「いや、入りたいねんけど、体が入らへんわ」
そう言いながら、戸口から覗きこむ・・・
それを見た父親・・・
「わっ!鬼や!どないしょ」
と思いますが、体が動かないので、逃げる事もできずにいると・・・
「お父ちゃん、俺やがな」
と息子・・・いや、鬼が・・・
.
「こんな風体になってしもたさかい、びっくりさしたらアカンと思て、今まで、よう会いに来んかってんけど、なんや、急に心配になってな。
いや、来て良かったわ。
心配すんな!
俺が、山に連れていって、ウマイもん、ぎょうさん食べさしたるさかいに・・・
ほんだら、すぐに元気になるて!」
父親に対して、自分を捨てた事を咎めるどころか、逆に、その事は無かったかのように、やさしく声をかける息子・・・
その姿に、感激の涙を流し、そのやさしさに胸がいっぱいになる父親・・・
しかし、もはや、その父の体は、その感激に耐えられないほどに衰弱しきっていたのです。
驚きではなく、感激のあまりに、父は、その場で亡くなってしまいました。
その様子を見た鬼・・・そっと、やさしく父の体を抱き抱えると、フッとひとっ飛びして、再び山へ帰って行ったのだとか・・・
その時、鬼の出現を遠巻きに見ていた茨木村の人々は、走り去って行く鬼の目に、いっぱいいっぱいの涙が溢れていたのを見たのだそうです。
以来、その鬼は、2度と人々の前には現われませんでしたとさ。
.
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コメント
ども。
自分が知ってる茨木童子は悪役で、酒呑童子の手下だったような…?
断然、こっちの話の方がイイ!!
さすが茶々様。(こうゆう話大好き!!)
京都、奈良散策もHP参考にさせてもろてます(多謝!!)
今日、金峯山寺蔵王堂特別御開帳、行ってきましてん。
(ココも何と奥が深いんでしょ…!!)
吉野、修験道などの記事も増やしてもらったら、とても有難いどす…(スミマセン)
では
投稿: azuking | 2012年10月13日 (土) 18時00分
azukingさん、こんばんは~
このお話…ウルッときますでしょ?
吉野、修験道…
おっしゃる通り、なかなかに深いですからね~
じっくりと勉強させていただいて、また、挑戦してみます。
投稿: 茶々 | 2012年10月14日 (日) 00時40分
雪山童子はちょっとこわいけど〜茨木童子は優しい鬼ですね。
投稿: やぶひび | 2012年10月14日 (日) 11時31分
やぶひびさん、こんばんは~
やさしい物語は、心もホッとしますね(*^-^)
投稿: 茶々 | 2012年10月15日 (月) 00時04分
茨木童子のお話、茶々さまの大阪弁の効能で、悲劇的な話にも、どこかとぼけた味があって。それが余計に情味を深めるというのか、(ノ_・。)本シリーズ中でも、とくに傑作だと思います。
映像化したら ウケそうですね。もちろん、大阪弁で。
投稿: レッドバロン | 2012年10月18日 (木) 20時00分
レッドバロンさん、こんばんは~
ホントですね~
おかしくて切ない…まさに、大阪のお話やと思います。
投稿: 茶々 | 2012年10月19日 (金) 01時26分