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2012年11月 8日 (木)

出っ歯の出刃包丁~刃物の日にちなんで…

 

本日、11月8日は、「刃物の日」という記念日なのだそうです。

昔から、鋳物師鍛冶屋刀工など(ふいご=金属製錬などで火力を強めるために用いる送風装置)を使って物作りをする職人の間で、「ふいご祭り」なるお祭りが、旧暦の11月8日に全国的に行われていた事

また、「11/8=イイハ」の語呂合わせから、刃物で有名な岐阜県関市刃物連合会の提案によって制定されたという事です。

刃物と言えば、上記の関市とともに有名なのが、大阪は堺・・・って事で、本日は、その堺に伝わる「刃物にまつわる昔話」をご紹介したいと思います。

・・・・・・・・・・

昔々、堺の町で刃物を作る鍛冶屋が沢山並ぶ一帯に、清やんと呼ばれる刃物職人がいました。

仕事はマジメで、なかなかの評判でしたが、この清やん・・・何とも残念なお顔だち・・・

デコは飛び出て、鼻はダンゴで上を向き、おまけに、ものズゴイ出っ歯・・・なんせ、普通に歩いてて、ヒラヒラと落ちて来た桜の花びらが、その歯にくっついてしまうくらいですから・・・

そんな容姿だった清やんは、いつしか、顔をなるべく見られないように、いつもうつ向いて歩くようになり、人と話をする時も顔を上げず、ひと言ふた言、ポツリと返事するだけになってしまい、同僚からも
「変わったヤッチャな~」
「仕事はようやるけど、ちょっとなぁ…」

と変人扱いされていました。

そんな中、ある日、同じ鍛冶屋で働くお梅という女中が、横で包丁を研いでいた清やんに
「清やん、悪いけど、ちょっと手伝うてくれへんやろか?」
と声をかけます。

彼女は、夜ご飯の支度の真っ最中で、魚をおろそうとしていたのですが、どうも、うまくいかない・・・

日頃から、明るくテキパキ働く美人のお梅に密かに憧れていた清やん・・・

ドギマギしながらも、得意の包丁の事とあって、
「ちょっと見してみぃ」
と、彼女の持っていた包丁を手に取ります。

これは、いけません。

思いっきり刃こぼれしていて、さすがにこれでは、うまく魚がおろせません。

「ちょっと待ってや」
と、その包丁を研ぎ始める清やんですが、よ~く見てみると、彼女の持っている包丁は、どれもこれも、手元の部分ばかりが刃こぼれしていて、先にいくにつれ、刃こぼれは、ほとんど見られません。

「けったいやな?」
と思いつつ、その場は、すべての包丁をキレイに研いでやりました。

以来、お客さんが修理に持ってくる包丁を、注意深く観察するようになった清やん・・・

あらためて見てみると、お客さんの包丁も、お梅の物と同じ・・・皆、手前のほうばかりが痛んでいます。

実は、その頃の包丁は、手前も先っぽも、ほぼ同じ厚さで造られていたのですね。

しかし、実際に包丁を使う時は、手元に力が入るので、使っているうちに手元ばかりが痛んでくるわけです。

「どうないしたら、使いやすい包丁になるんやろ??」

清やんは、今まで以上に無口になって仕事に励み、その研究に夢中になっていきました。

それこそ、大好きなお梅ちゃんが、鍛冶屋をやめて故郷に戻ってしまった事にも気づかないくらい・・・

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堺の包丁…以前、堺に訪れた時(5月21日参照>>)水野鍛錬所の工房を見せていただいた興奮のあまり、勢いで茶々が買ってしまった物です。今もよぉ切れます!

やがて、1本の包丁を作り上げた清やん・・・それは、今まで見た事も無いような不細工な形の包丁でした。

手元が異常にぶ厚く、先にいくほど薄くなるものの、1番薄い所でも、これまでの包丁よりは、うんとぶ厚い・・・

一大決心をして、その包丁を鍛冶屋のご主人に見せる清やん・・・

「なんや、これまたぶっさいくな包丁作ったなぁ~」
と言いながら、試し切りして見る主人・・・

これが、見事に使いやすい!!

固い魚の骨もなんなく切れるし、力を入れても刃こぼれしない・・・

「こらえぇわ!こんなちょっとした事で、こんなにも切れ味のえぇ包丁ができるとは!
清やん・・・頑張ったな…」

と、主人も大喜びで、早速、同じ包丁を大量に作って、新作として売り出す事に決めました。

しかし、清やん本人は、この新しい包丁を作った途端に店を辞めてしまい、どこへともなく旅立って行ってしまいました。

町の噂では、「包丁が完成したのに、見せる人がいない」・・・

つまり、「お梅がいなくなった事に気づいて、店を辞めてしまったのではないか?」と囁かれましたが、その行方はいっこうに知れず・・・

「お梅の故郷に追っかけて行って、二人は結ばれた」という人もいれば、
「失意のもとに、もう立ち直れなくなっている」という人もいましたが、

清やんが発明した包丁は
「出っ歯の清やんの包丁」「出刃包丁」という名前で、全国津々浦々に広がっていく事になるのです。

・‥…━━━☆

という事ですが、ご存じ出刃包丁の出刃は、おそらくは、歯ではなく「刃が出ている」って事で、今回のお話も、あくまで伝説の域を越えない物ですが、実際に、「出刃包丁が初めて作られたのが、江戸時代の堺である」というところは、間違いないようですので、清やんが出っ歯だったかどうかはともかく、彼のように研究を重ねた包丁職人が、堺にいた事は確かでしょう。

せっかくですから、できれば、お梅ちゃんの故郷で、二人、仲睦まじく暮らしていてほしいですね~
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