冬の夜の昔話~奈良の「ゆきちゃん」
今日は、1月20日は二十四節季の一つ大寒(だいかん)です。
(二十四節季については10月8日のページで>>)
もう、字からして、1番寒い季節ってのがわかりますが、本日は、そんな寒い日にピッタリの奈良に伝わる昔話=「ゆきちゃん」をご紹介します。
口伝えの昔話ですので、どこかによく似た話が残っていたり、題名や内容が違っていたりという事もあろうかと思いますが、なにぶん、成立年代もハッキリしない物ですので、そのあたりはご了承ください。
・・・・・・・・・・
昔々、奈良のある村に仲の良いおじいさんとおばあさんがおりました。
年老いても比較的元気な二人にとっては、毎日が楽しく、しいて不満は無かったのですが、ただ一つの心残りは、この年になっても、二人の間に子供がいなかった事・・・
そこで、ある日・・・
「なぁ、おじいさん・・・一つ、村のお宮さんに願をかけにいきましょうな・・・
ひょっとしたら、願い事、聞いてくれはるやも知れまへんで」
と、おばあさん・・・
「そやな」
という事になって、ある晴れた日に、二人で出かけ
「どうか、私たちにややこ(赤ん坊)を授けてくだされ~」
と、願いをかけ、その日からは、雨の日も風の日も、欠かさずに出かけては、お祈りする毎日でした。
そんなこんなで幾日がたったある日・・・その日は、ハラハラと雪の舞う寒い日でした。
いつものようにお宮さんの前に来ると、赤い綿入れにくるまった赤ん坊がオイオイと泣いておりました。
「おぉ、可哀そうに・・・どないしたんや?」
と抱きあげるおばあさん・・・
ふと
「ひょっとして、この子は、氏神様がワシらに授けてくれはった子やないやろか?」
と思うおじいさん・・・
あたりを見回しても誰もいませんし、このまま、雪の中に置いて帰るのも心苦しい・・・とりあえず、家に連れて帰りますが、氏神様への願掛けの事もあり、その帰り道の時点で、もう、二人の心の中は、我が子としての情で満杯に・・・
家に帰ってよくよく赤ん坊の顔を見てみると、肌が抜けるように白い・・・
もう、すっかり、その気になって
「こんな、ええ子を授けてくださって・・・ホンマ、ありがたい事や」
「雪の日に授かった雪のように白い子やさかい、名前は『ゆき』にしまひょ」
と・・・
以来、おじいさんとおばあさんは
「ゆきちゃん」「ゆきちゃん」
と言って、可愛がって育てました。
ゆきちゃんは、白いご飯を1杯食べれば1杯ぶん、2杯食べれば2杯ぶん・・・と、食べたら食べただけ、ズンズン背がのびていきます。
元気で丈夫で明るくて・・・さらに、なかなかの器量よし・・・それこそ、申し分無い良い子に育つゆきちゃんですが、おじいさんとおばあさんにとっては、たった一つ気がかりな事が・・・
それは、ゆきちゃんは冬の寒いにには、メッチャ元気なのですが、夏の暑い日には、何だかしょんぼりしている・・・
「なんでかなぁ?」
と思いつつも、秋風が吹く頃には、また元気になるので、
「まぁ、いいか!」
てな感じだったわけですが・・・
そんなこんなのある日・・・その日は、村祭の日でした。
「ゆきちゃん、あそぼ!」
「お宮さんへ、行こうや!」
と村の子供たちが誘いに来ます。
「うん!」
と、ゆきちゃんは可愛い鹿の子の着物を着せてもらって、友達といっしょにお祭りに出かけました。
境内につくと、そこには、赤々と松明(たいまつ)が燃え、祭の雰囲気も最高潮・・・
いつしか、子供たちの間で、「松明の飛び比べっこ」が始まります。
「1・2・3!」
「せ~の」
で、走って行っては、松明を飛び越えて、勇気をためす子供たち・・・
「ゆきちゃんも、いっしょに飛びくらべっこしようやぁ」
一人の子が誘います。
「いやや、こわいもん」
「怖い事あらへんって・・・」
「飛んでみ、飛んでみ」
「いやや、いやや」
と、かたくなに嫌がるゆきちゃんを見ていると、周りの子供たちも、ついつい意地になって来るもので・・・
やがて、
「飛ばれへんのか~い」
「や~い、弱虫、毛虫~」
と、はやしたてるようになります。
その光景に、負けん気が湧いてくるゆきちゃん・・・
「なにクソ!!」
とばかりに、走っていって、プイッと松明を飛び越えます。
・・・と、ゆきちゃんの体が、フワッと松明の上を飛び越えようとした時、いきなり、白い湯気が立って、ゆきちゃんの体はポッカリと消えてしまいました。
ゆきちゃんは、雪の子・・・火の上を飛んだひょうしに溶けてしまったんやね。
・・・と、友達は皆、たいそう悲しんだという事です。
・・・・・・・・・
東北地方に伝わる「溶けた雪ん子」とソックリのお話ですが、東北地方のが、友達に火のそばに力づくで押しつけられて溶けてしまうのに対して、奈良のお話は、「はやしたてられた事をくやしく思って」自ら飛びに行くっていうところが興味深いですね。
穏やかで保守的でのんびりした性格なのに、負けるくやしさ(特に京都に?)だけは譲れない・・・そこに、奈良県民の秘めたる負けん気の強さを感じる気がするのですが・・・どうでしょうか?
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コメント
ども、
奈良、京都、地元大阪など最近興味深々なので、昔話集など目を通すこともあるのですが、少し堅苦しい感じがして…。
その点茶々様の文体は歯切れ良くとてもお気に入りです。
(^▽^)/!◆
昔話(特に京都、奈良、大阪)の追加、心よりお待ちしておりまする。
d(⌒o⌒)b
投稿: azuking | 2013年1月20日 (日) 23時09分
奈良県民ですが…奈良県はどこの都道府県にも対抗意識を持っていない、覇気のない県民性だと思います(笑)
なぜか京都に対抗意識を持ってると思われがちなんですよね…。気にしてないというか、普通に京都が上でしょ?っていう意識です。
あ、でも仏像に関しては負けてないと思ってるかな。秘めたる負けん気出ましたかね。
投稿: せんとちゃん | 2013年1月21日 (月) 00時20分
azukingさん、こんばんは~
ありがとうございます!
昔話系は日づけに関係ない話が多いので、いつも「いつ書くか?」を迷うのですが、また、イイ機会を見計らって、ご紹介させていただきますね!
投稿: 茶々 | 2013年1月21日 (月) 03時32分
せんとちゃんさん、こんばんは~
穏やかなので、決して表面に出して騒ぐ事は無いけれど、心の奥底に古の都のプライドをしっかりと持っておられる感じがしたので「秘めたる負けん気の強さ」と表現させていただきましたが、決して悪い意味では無いですよ。
仏像どころか、建築物も、「当時のまま現存」の観点から見れば、価値が高いように思いますが、なぜか、拝観料は京都より安いです。
見させていただく側としてはウレシイですが…
投稿: 茶々 | 2013年1月21日 (月) 03時41分
ゆきちゃんが消えちゃった後の、お爺さん・お婆さんの落胆ぶりが目に浮かびます。ゆきちゃんが消えちゃった後、お爺さん・お婆さんがどうなったか知りたいです。年老いてから授かった幼子が、ある日忽然と姿を消したら、気が触れてもおかしくはない。………ハッピーエンドを予想できない、何だか残酷な昔話ですね。
投稿: マー君 | 2013年1月21日 (月) 13時56分
マー君さん、こんにちは~
このお話は、ここで終わっているので何とも言えませんが、確かにハッピーエンドでは無いでしょうね。
本来の昔話は往々にして、残酷な事が多いです。
投稿: 茶々 | 2013年1月21日 (月) 15時50分
茶々さん…お早うございます。そうですね、本当は怖い昔話ナンテ本まで出てますもんね。然し、巷間伝えられてる話は、ハッピーエンドが多いですし、何らかの人生訓や道徳的素養を醸成する訓戒みたいなモノが有りますが、この話にはどんな人生訓が含まれるのかよく分かりません。
投稿: マー君 | 2013年1月22日 (火) 06時55分
茶々さん…連続投稿お許し下さい。せんとちゃんさんに対するコメントにてチョットばかし気になった点がありましたので、お小言を言わせてもらいますね。拝観料は拝み観る為の料金ですから、拝ませていただくと言うように心掛けて下さい。最近、御守り(御札)を買う。縁起物を買う。ナンテ言う人が多いですが、神社仏閣の授与所で購入する物品は、神仏の御霊の入ったモノで有ったり、特別に祈願をした神聖なモノばかりです。普通の商店の商品のように軽々に買うとは言わないように注意してほしいです。それと同様に仏像や本堂の厨子などは見るモノじゃなく拝むモノと認識して下さい。職業柄、細かいことを申しましたが、歴史に造詣の深い茶々さんなら御理解頂けると思い、失礼を顧みずコメントさせてもらいました。
投稿: マー君 | 2013年1月22日 (火) 07時15分
マー君さん、こんにちは~
神職さんの立場からでしたら、そうでしょうね。。。
なにぶん無神論者で、申し訳ないくらい信心が無いもので…失礼しましたm(_ _)m
投稿: 茶々 | 2013年1月22日 (火) 15時22分
ロシアにも似たような民話がありますね。
余りに寒いので、いつもは外で遊んでいる雪娘を暖炉のそばに連れて行ったら、溶けてしまって。娘を愛していたおじいさん・おばあさんは大層悲しみ、娘の身に付けていた帽子や外套や手袋を形見として大切にとっておくのですね。
やがて雪の振る季節になると、家の外から、鈴の鳴るような娘の声が聞こえてきて…彼女は帰って来たのですね。…という北国の幻想的な民話です。こちらの方はハッピーエンドになってますね。
投稿: レッドバロン | 2013年1月23日 (水) 21時12分
レッドバロンさん、こんばんは~
ロシアはハッピーエンドなんですね。。。
悲しいけど、自然に帰るのが1番という気もします。
投稿: 茶々 | 2013年1月24日 (木) 01時51分