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2013年3月29日 (金)

比良八講荒れじまい~近江の昔話

 

毎年、3月の終わり頃になると、滋賀県の琵琶湖西岸に立つ比良(ひら)山地の急斜面を駆け降りるように、北西から琵琶湖面に向かって強い風が吹き荒れる事があります。

もちろん、これは、気圧配置に叶ったこの時期独特の自然現象なわけですが、「比良颪(ひらおろし)と呼ばれるこの風は、かつて、この比良にあった天台宗のお寺で、法華経を講読する法華八講と呼ばれる法要が行われる頃と重なる時期に多く発生していた事から、「比良八講(八荒)とも呼ばれています。

そして、不思議な事に(もちろん、現在では気象学で説明できるでしょうが)この風は4月に入るとほとんど吹かなくなる・・・

なので、この3月も終わりの頃に吹く比良おろしを「比良八講の荒れじまい」と呼んで、現在では、琵琶湖に本格的な春の訪れを告げる風物詩となっています。

本日は、そんな「比良八講の荒れじまい」にまつわる近江(滋賀県)のちょっと切ない昔話・・・『比良の八荒』をご紹介させていただきます。

・‥…━━━☆

昔、琵琶湖東岸の愛知川(えちがわ=彦根市と東近江市の境界付近を流れる)の河口近くに住むある娘が、毎晩、たらい舟に乗って湖を渡り、対岸の若者に会いに行っておりました。

そう、彼女は、その若者が大好き!!

実は、その思いを告白した時、若者が
「そないに俺の事が好きやねんやったら、百日通て来い!
ほんなら、その思いを遂げさせたる」

と、思わずグーで殴りたくような上から目線な事をのたまったのです。

「でも、そんな俺様なところが好き!(≧m≦)」
(なのか?…ならしゃーない)
とばかりに、娘は思いを遂げるべく、その日から毎日、日暮れとともにたらい舟に乗って、対岸のカレのもとへ通っていたのです。

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琵琶湖の夕暮れ…彦根から対岸(比良山方面)を望む

雨の日も風の日も・・・毎日毎日、、、

「あと20日や」
「あと3日や」

と・・・湖の向こうにチラチラ見える灯りを頼りに、エッチラオッチラたらい舟を漕いで・・・

やがて
「あと一晩」
という夜の事・・・

いつものように湖に漕ぎだして、対岸の灯りを目指して進ん行ったのですが、ふと見ると、いつの間にやら頼りの灯りが消え、湖は真っ暗闇となってしまいます。

「ありゃ、どーしたこっちゃ!」
と、漕ぐスピードを速めてみるものの、たらい舟はあっちへ向いたり、こっちへ向いたり・・・何も見えない湖の上では、もはや方向もわからなくなってしまいます。

真っ暗な湖面と真っ暗な空・・・もう何も見えず、あたりは静かな波の音だけ・・・

やがて、そこに比良の八荒が吹きおろします。

そうなると、小さなたらい舟はひとたまりもありません。

アッと言う間にひっくり返って、その娘は、暗い湖の中に吸い込まれてしまったのです。

以来・・・毎年、彼女が亡くなった3月の終わりになると、彼女の悲しみを知らせるがのごとく、琵琶湖に「八荒おろし」が吹き荒れるようになったという事です。

・‥…━━━☆

何やら、小野小町(おののこまち)(3月18日参照>>)のもとへ通った、伝説の「深草少将の百日通い」を思い出すような昔話ですが、深草少将(ふかくさのしょうしょう)もそうであったように、これも、結局、思いが叶うはずの100日目にトラブルに巻き込まれて亡くなってしまうという悲しい結末を迎えます。

もちろん、冒頭に書いた通り、これは自然現象なので、おそらくは神代の昔から、比良八講はこの季節に吹いていたのでしょうが、「気象が…」「等圧線が…」なんて事はわからない昔の人たちだからこそ、春を待つこの季節に起こる風を、願いが届かなかった悲しい少女の物語に結びつけたくなったのでしょうね。
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怨霊・伝説・昔話・不思議話」カテゴリの記事

コメント

毎日 楽しくよませていただいてます。イヤー、深いですね。感激します。

投稿: sipponasi | 2013年3月29日 (金) 21時43分

何て切ないお話なんでしょうね…恋の情熱にとりつかれてしまったら最後は罰が当たって死んでも知らないわよ、という教訓なのでしょうかこれは(笑)おー厳しい…

投稿: poem | 2013年3月29日 (金) 23時10分

sipponasiさん、こんばんは~

切ない昔話ですよね~

投稿: 茶々 | 2013年3月30日 (土) 04時00分

poemさん、こんばんは~

う~ん(゚ー゚;
どちらかと言うと、私には「恋の情熱」への教訓というよりは、「この時期には大風が吹くから、事故に気をつけよう」みたいな教訓のようにも思えます。

投稿: 茶々 | 2013年3月30日 (土) 04時04分

花さそふ 比良の山風吹きにけり 漕ぎ行く後の 舟みゆるまで


夭折の歌人 若草の宮内卿の歌を思い起こす昔話ですね。比良の山風はこの時代(新古今集)にも有名であったことと思います。

投稿: レッドバロン | 2013年3月31日 (日) 13時24分

レッドバロンさん、こんにちは~

強風も、歌に詠めば、季節の風物詩として、なにやらイイ感じです。
私は、大伴家持が万葉集に詠んだ富山の「あいの風」を思い出します。

投稿: 茶々 | 2013年3月31日 (日) 15時32分

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