奈良の昔話「楠の木の秘密」…金閣寺・建立にちなんで
応永四年(1397年)4月16日、第3代室町幕府将軍・足利義満が建立した金閣寺の棟上式が行われました。
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って事で、本日は、その金閣建立にまつわる昔話・・・奈良は大和高原地方に伝わる『楠の木の秘密』を・・・
と、その前に・・・
足利義満(あしかがよしみつ)については
【将軍権力の確立に生涯をかけた足利義満】>>
有名な、金閣と銀閣の違いについては
【銀閣寺が銀箔じゃないワケは?】>>
など、ご覧いただけるとありがたいですo(_ _)oペコッ
・‥…━━━☆
昔々、伊賀の国に、たいそう腕のたつ木こりがおりました。
その頃、都では、金閣寺の1枚天井を作るのに必要な、大きな楠の木を探していましたが、その一報は、その伊賀の木こりのもとにも届いていて、
「よっしゃぁ!きっと俺が、立派な楠の木をい見つけて、金閣寺の天井をふいて見せるゾ!」
と、はりきって、伊賀街道のあっちへこっちへと、立派な楠の木を探し求めて歩いておりました。
そんなある日、堂が谷と呼ばれる場所まで来ると、まわりが八間(1間=約1.8m)ほどある、それこそ見上げるような、立派な楠の木を見つけます。
「キタ━(゚∀゚)━! キタ━、これこそ、探しとった木やないかい!」
早速、仲間の木こりたちを呼んで、ギーコ ギーコ…と木を切りはじめます。
すると、切った場所から、ポタリポタリと、赤い血のような液体がこぼれ落ちはじめました。
「なんや不思議やな」
「きしょくわるいな」
と思いながらも、何とか、皆で切り倒して、とうとう最後の一息・・・というところまできます。
ところが、その時・・・
突然、枝の1本がパシッという音を立てて折れ、一人の木こりの目を直撃・・・その木こりは倒れてしまいます。
しかし、それと同時に、ともかく木は切り倒したわけですから、
「ほな、今日はここまでにして、続きは明日にしようや」
と、その日の仕事を終えました。
そして次の日の朝・・・
再び、楠の木のところに行ってみると、あら不思議・・・枝も幹も葉っぱも根っこも、皆、もとどおりにしっかりとひっついて、何事も無かったかのように、スクッと立っています。
「なんでや?
倒したはずの木がもとどおりになってるやないかい!」
不思議がる木こりたち・・・
しかし、考えても理由なんてわかりません。
「とにかく、昨日の仕事終わりから、今朝にかけての間に何かあったわけや」
・・・と、そこで、例の木こりは、その日の夜は、家に戻らず、その木のそばで夜通し過ごして、様子を観察する事にします。
落ち葉を集めて、居心地の良い布団を作り、そこに寝っ転がって、一夜を過ごす事にしました。
やがて夜の林の中は、真っ暗闇・・・時おり、フクロウがホウホウと鳴き、まさに静まり返っていきます。
しかし、そんな中、その静けさを破るかのように、ゴウゴウと聞いた事も無いような音がしてきました。
「なんや?なんの音や?」
木こりは身構えながら、葉っぱの影に身を隠し、木の葉の間から、ソ~ッと楠の木に方を観察します。
「んん?」
と思いながら、その目を上の方へ向けると・・・なんと、空から天狗が降りて来るではありませんか!
「楠の木さん、楠の木さん。。。ほんま、びっくりしたでぇ~具合はどないやねん」
と天狗・・・
すると楠の木は
「おやおや天狗さん、見舞いに来てくれたんかいな。
ありがとな~
けど、ご覧の通り、ワシは、なんぼ切られても大丈夫や!
元気!元気!」
「ほな、良かったわ」
「けどな、ナイショやけど、実は、ワシにも苦手なもんがあってな」
「ほう、そうかいな」
「それはな、アラメ(昆布の1種)を炊いた汁や。。。
あのだし汁だけは、どーもアカンのや。
あれをかけられたら、ワシもおしまいやねんけど、その事は誰も知らんさかいに、まぁ、安心やけどな」
「そうか、そうか、とにかく無事で何よりや!
ほな、お大事にな~」
当然、この会話を草の影で聞いていた木こり・・・
「しめしめ、ええ事聞いたゾ!
アラメの汁か…なるほどな」
次の明け方、木こりは早速、伊賀の自宅に戻り、せっせとアラメを炊き、そのだし汁を大きな壺に詰めて、堂が谷の楠の木のもとへ・・・
その木の根元に、アラメの煮汁を、一振り二振り・・・と振りかけると、木の中からした「チチチ…」という音とともに、葉っぱがハラリと落ち、幹が灰色に変色したかと思うと、ひとりでに、大きな楠の木がポッキリと折れ、ド~ンという音とともに倒れました。
そうして、この木は都へと運ばれ、金閣寺の1枚天井になりましたと・・・さらに、この木を手に入れた木こりたちも、たいそう出世したそうな。。。
おしまい
・‥…━━━☆
う~~ん。なんとも複雑なお話ですね~
それこそ、誰かの作によるおとぎ話ではなく、口伝えで伝えられている昔話なので、そこに、勧善懲悪や感動美談ばかりを望んではいけないのでしょうが、なんとなく、切られた楠の木の味方をしたくなりますね~
これも、室町幕府という権力に対しての、ちょっとした抵抗?・・・相手の印象を悪くするネガティブ・キャンペーン?なのかも
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コメント
こちらのお話は何ともすっきりしない…!?
楠、天狗、木こり、アラメ、金閣寺~。
赤い樹液が今も金閣寺の天井に残っているなら
また何らかの意図を感じるところですが
どうでしょう^^
投稿: tonton | 2013年4月16日 (火) 19時38分
茶々様こんばんは。
楠からは、セルロイドや火薬などをつくれるしょうのうが採れるんですよね。
楠木正成の出自について隊商集団の頭目説があるようですが、しょうのうや辰砂で利益を上げた一団があったとか。
辰砂は硫黄と水銀の化合物で、なんだか西洋の錬金術を思い出させますね。
昆布の煮汁と言っているのは、ひょっとしてそのヨウド分とかと関係して木材への何らかの化学的な処理とか、当時知られていた技術と関係があるのかな...
投稿: 楠まさし | 2013年4月16日 (火) 20時10分
こんばんは。今回は巨木伝説ですねえ。
実は以前私のブログで紹介した、大分県伐株山の巨木伝説。記事では風土記の内容を紹介していますが、別バージョンとして似たような民話があります。奈良の昔話では、天狗との会話を盗み聞きして伐り倒したようでうが、大分の方はヘクソカズラの精に伐り倒し方を教えてもらっています。
今度その記事も追加しておきます。
投稿: 高来郡司 | 2013年4月17日 (水) 00時10分
楠まさしさんのコメントに追加でなんですが、伊賀の国にはたしか辰砂がとれるところがあったような。無関係と思いますが。
ある時代までは、この国でも「強くて賢い」ことが「倫理的に正しい」ことより尊重されていたような気がします。でもこのきこりは賢いというより「運がいい」といった方がいいでしょう。
投稿: りくにす | 2013年4月17日 (水) 00時14分
tontonさん、こんばんは~
ほんとに…
なんか違和感残りますよね~
投稿: 茶々 | 2013年4月17日 (水) 02時38分
楠まさしさん、こんばんは~
そうですね。
「昆布の煮汁」というのは、何らかの技術を暗示しているような気もします。
投稿: 茶々 | 2013年4月17日 (水) 02時40分
高来郡司さん、こんばんは~
おぉ、やはり、風土記や民話に似た物があるのですね~
どういう広がり方&枝分かれの仕方をしているのか…興味津々ですね。
投稿: 茶々 | 2013年4月17日 (水) 02時42分
りくにすさん、こんばんは~
>「運がいい」
そうですね。
楠の木さんが、勝手に弱点をしゃべってくれましたからね。
ついつい木の味方をしてしまうのは、現代人だからかも知れません。
投稿: 茶々 | 2013年4月17日 (水) 02時44分
こんばんは。
楠さんが弱点を話すくだりは、「まんじゅうこわい」みたいに
わざと木こりに嘘の弱点を教えた…と予想していましたが外れました。
やっぱり楠の味方をしてしまいます。
投稿: ハルブル | 2013年4月30日 (火) 00時56分
ハルブルさん、こんばんは~
ハイ、
つい、楠さんが可哀そうに思ってしまいます。
投稿: 茶々 | 2013年4月30日 (火) 01時40分