今日は、『風林火山・孫子の兵法』の10回目、『行軍篇』を紹介させていただきます。
・‥…━━━☆
行軍篇には、かなり具体的な戦法が書かれています。
具体的な戦法というのは、一見すると現代には、もう役に立たない事のようにも見えます。
たとえば・・・
『山を絶(こ)ゆれば谷に依たり、生を視して高きに処(お)り、隆(たか)きに戦いて登ることなかれ。これ山に処る軍なり。』
「山で戦う時は、谷に沿って移動し、視界の開けた高い所に陣を敷く事。もし敵が先にそのような場所にいる場合は、こっちから攻撃してはならない」
これは、山岳地帯で戦う時の戦法です。
飛び道具が飛び交う現代の戦争や、まして、ビジネスの社会などにはまったく無関係のようにも思います。
さらに、川べりで戦う場合・・・
川を渡る時はすみやかに渡り、渡り終えたら水から遠ざかる事。
敵が川を渡ってくる時は水の中で迎え撃たず、半分が渡り終えてから攻撃を仕掛けるが、水際で戦ってはならない。
陣を敷く時は、視界の開けた高所を選び、川下から川上にいる敵を攻撃してはいけない。
そして、湿地帯での戦いは避ける事。
どうしても戦う時は、水草の茂みを選び樹木を背にして戦え・・・と続くのです。
さらに、念をおすかのように
『軍は高きを好みて下(ひく)きを悪(にく)み、陽を貴(たっと)びて陰を賤(いや)しむ。
生を養いて実に処(お)り、軍に百疾なし。』
「陣を敷くなら、低地を避け高地に、そして日当たりの良い場所を選び日陰を避ける。
そうしておけば健康管理に役立ち、病気にならない」
しかし、ここまで読んでみると、すべての場所に共通した孫子の思想が、なんとなくわかってきます。
たしかに、一つ一つの具体的な戦法は現代の世の中では役に立たないかも知れませんが、常に敵の行動が見えやすい優位な位置にいなければならない事、不利な条件では戦わない事、兵士の健康面にも注意を払う事・・・それらを注意していれば兵士一人一人の安心感にもつながるのです。
この考え方は、現代でも通用するんじゃないでしょうか?
さらに、孫子では近づいてはいけない場所を六つ挙げています。
・絶澗(ぜっかん):絶壁に囲まれた場所。
・天井(てんせい):深い窪地。
・天牢(てんろう):3方が険しい場所に囲まれた所。
・天羅(てんら):草木が密集した場所。
・天陥(てんかん):湿地帯。
・天隙(てんげき):でこぼこした場所。
このような場所には絶対に近づかず、逆に敵をこのような場所に誘い込むようにしなさいと言っています。
やはり、ここでも危険を避けて優位に立てという事です。
言葉に出しては言っていませんが、これらの事を実現するためには、その場所の地理に精通していなければならないし、敵の行動を把握していなければならない事も、これまでの孫子を読んでくださった方なら、もうおわかりの事でしょう。
次に、行軍篇は心理戦へ突入していきます。
『敵近くして静かなるは、その険を恃(たの)べばなり。
遠くして戦いを挑むは、人の進むを欲するなり。
その居る所の易(い)なるは、利なればなり。』
「敵が近くなのに攻めて来ないのはそこが攻め難い場所であるから。遠くにいるのに攻めてくるのは、こちらを誘い出そうとしているから。敵がそこにいるのは、そこが有利な場所だから。」
さらに、木々が動くのは敵が来たから・・・
鳥が飛び立つのは、兵が潜伏しているから・・・
土ぼこりが低く舞うのは歩兵が進攻してきたから・・・
土ぼこりが少ない量で移動しながら舞うには宿営をするから・・・
などと続きますが、要するに、物事にはすべてそうなる要因がある事を考えなければいけないという事です。
敵の行動も、自然の出来事も、なぜそうするのか?なぜそうなったのか?という事に常にアンテナを張り巡らせておかなければならないのです。
敵との心理戦はさらに進みます。
『辞卑(ひく)くして備えを益すは、進むなり。辞彊(つよ)くして進駆(しんく)するは、退くなり。
軽車先ず出(い)でてその側に居るは、陣するなり。
約なくして和を請うは、謀るなり。
奔走して兵車を陳(つら)ぬるは、期するなり。
半進半退するは、誘うなり。』
「敵が謙遜(けんそん)しながらも準備を整えている時は進攻してくる。
逆に強気を全面に押し出して今にも進攻するように見せる時は撤退の準備をしている。
戦車を全面に出している時は、その側で陣を固めている。
対峙している時に突然和睦を申し込んで来た時は何か謀略を企てている。
敵が慌てて戦車を並べだしたら決戦を考えている。
敵が勝敗に関係なく一進一退を繰り返すのは、誘いをかけている時である。」
敵の行動を見て、その心理を探るのは、孫子の中ではこの後も、「幹部がやたら部下に怒鳴り散らす時は疲れている」とか「水汲みに行って自分が真っ先にに飲むのは水不足」とか、もっともな事がもう少し続きますが、先ほども書きましたように一つ一つの具体例は現代にはあてはまらない事も多々あります。
現代人の私たちにとっては、一つ一つの具体例が重要なのではなく、あくまでなぜこうなったのか?の要因を探るという事が重要なのです。
そして、行軍篇の最後に登場するのは、自軍の兵士に対する心理作戦・・・そうです、部下の扱い方です。
これは役立ちそうですねぇ~。
『数(しばしば)賞するは、窘(くる)しむなり。
数罰するは、困(くる)しむなり。
先に暴にして後にその衆を畏(おそ)るるは、不精(ふせい)の至りなり。』
「やたら賞金や勲章を連発するのは行き詰まり、
やたら罰するのも行き詰る。
部下に散々怒鳴り散らしておいて後で嫌われるのを気にするなんてバカをさらけ出してるよなもんだ」
たはー、耳が痛いですねコリャ。
賞なんて物も、連発してたら希少価値がなくなって、もらってもうれしくないですもんね。
『卒、いまだ親附(しんぷ)せざるに而(しか)もこれを罰すれば、則(すなわ)ち服せず。
服せざれば則ち用い難きなり。
卒、すでに親附せるに而も罰行なわざれば、則ち用うべからざるなり。』
「部下と親密になっていないのに、罰則ばかり厳しくすれば、部下は心を開かない。
心を開かなければ扱い難い。
逆に親密になったからと言って違反しても罰しないでいると、これまたよろしくない」
おっしゃる通りです。
『故にこれに令するに文(ぶん)を以ってし、これら斉(ととの)うるに武(ぶ)を以ってす。』
「だから、規則違反に関して、やさしさでもって教育し、厳しさでもって統制をとる。」
飴とムチですな。
『令、素(もと)より行なわれて、以ってその民を教うれば、則ち民服す。令、素より行なわれずして、以ってその民を教うれば、則ち民服せず。令、素より行なわるる者は、衆と相得るなり。』
「そこんところをしっかり踏まえて教育すれば部下は命令に従うし、そこんところがうやむやになっていれば当然従わないわけで、上司と部下の信頼関係はそれによって生まれる。」
わけですな。
孫子に言わせれば、先の敵情視察も同時進行し、そうやって兵士との信頼関係を築きあげ、一致団結・結束を固めれば、兵の数の多い少ないはたいした問題ではないのだそうです。
孫子のおっしゃる事はよくわかりますが、実践するのはなかなか難しいですね。
理想の上司のアンケートで上位に入っているタレントさんでも、きっと本当の上司だったらうまくいかないかも・・・って思っちゃいます~。
しかし、この孫子を知っているか知っていないかでは、大違い。
心のどこかに留めておけば、いつか花咲く時が来るかも知れませんからね。
以上、今日は『行軍篇』を紹介させていただきました~
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